今回は、以前掲載した「英文契約書の用語・単語「前置詞+関係代名詞」」に加筆した内容です。
実際に英文契約書でみかける関係代名詞の多くは、「前置詞+関係代名詞」のパターンです。この場合、一般的に前置詞は目的格のwhich、whomのような関係代名詞の前に置かれます(thatを除く)。
前置詞+関係代名詞」の成り立ちを見てみます。
This is my brand-new smartphone. I was telling you about it.
上記の2つの文を1つにまとめると、以下になります。
This is my brand-new smartphone about which I was telling you.
このとき「I was telling you about it」に「it」は、「about」の目的語(「~を」「~に」の「~」にあたる言葉。動詞の動作が及ぶ対象や動作の目的を示す言葉。この場合、aboutは、動詞ではありませんが、「about=~について」の意味で「~」にあたる部分(aboutが指し示す対象物)は「it」)
文法書の説明では、「関係代名詞に導かれる節で、関係代名詞が前置詞の目的語になるときは、前置詞は関係代名詞の前に置かれる」と解説されています。
なを、前置詞が文末に置かれることもあります。いずれにしてもここでは、「前置詞+関係代名詞」の文法的な成り立ちではなく、具体的な使われ方を取り上げてみたいと思います。
関係代名詞の成り立ちにつては、英文契約書の関係代名詞(その1)https://www.ings-web.co.jp/archives/5145に簡単な説明があります。
1.「前置詞+関係代名詞」のパターン
「前置詞+関係代名詞」の例としては、以下のような様々なパターンがあります(これ以外にもあります)。
with which、from which、above which、after which、against which、among which、around which、at which、below which、between which、beyond which、by which、by means of which、during which、for which、from which、in which、into which(その中に)、of which(その)、on which、out of which、over which、to which、through which、under which、upon which等、様々なものがあります。
今回は、上記の中から、多くみかけるfrom which(*そこから)、in which(*その中に)、of which(*その)、on which(*その上に)を例にとります。
2. 「前置詞+関係代名詞」の成り立ち
「from which」
This is Monet’s masterpiece. + He was inspired from Monet’s masterpiece.
This is Monet’s masterpiece from which he was inspired.
She is trying to find an apartment. + Her office is within a short walking distance from an apartment.
She is trying to find an apartment from which her office is within a short walking distance.
「in which」
This is the place. + We lived in the place in my childhood.
This is the place in which we lived in my childhood.
I love spring. + Many beautiful flowers bloom in spring.
I love spring in which many beautiful flowers bloom.
「of which」
This is the lake. Water of the lake is very cold and clear.
This is the lake of which water is very cold and clear.
There are a lot of words. + I don’t know the meaning of those words.
There are a lot of words of which I don’t know the meaning.
「on which」
The water surface inside the reef is calm. + I floated a boat on it.
The water surface inside the reef is calm on which I floated a boat
It was said that the country on which the sun never sets.
*from which(そこから)、in which(その中に)、of which(その)、on which(その上に)について、( )内に一応の暫定訳は付けましたが、「前置詞+関係代名詞」は、文章の一部であり、実際には前後の文脈により、適切な訳語が必要とされるので、上記の暫定訳が当てはまらない場合も多く、これらの暫定訳はあくまで参考程度です。
3. 英文契約書の例
英文契約書でみかける「前置詞+関係代名詞」の例文を契約書翻訳の観点から作ってみました。
This Agreement may be executed in several counterparts, all of which will constitute one agreement. (本契約は、複数の正副本を作成することができる。これらのすべては、1個の契約を構成する)
The Buyer shall return to the product to the shop from which the Buyer acquired it within thirty (30) day after the purchase thereof if he or she desires to return the purchased product. (購入者が、購入した製品の返品を望む場合、購入後30日以内に製品を購入した店舗に製品を返品する)
The shareholder registry shall record the date on which the name of each Shareholder was entered in it and the date on which he or she ceased to the Shareholder. (株主名簿には、各株主の氏名が記載された日付と、株主が辞任した日付を記録する)
The entruster shall notify the trustee of the manner in which the equipment is used prior to the commencement of the Service. (委託者は、役務を開始する前に機器の使用方法を受託者に通知する)
「前置詞+関係代名詞」について、ざっと見てきました。文法的な部分にはできるだけ立ち入らないようにしました。関係代名詞については、上記でとりあげたほかに、「who」、「whose」とか「that」や、例えば、場所を表すもの、例えば「on which」、「in which」などは、場合により「where」を使って表すこともできます。
4. 「前置詞+関係代名詞」と「関係副詞」
a. 関係副詞について
例えば、「on which」,「in which」、「at which」などが場所を表す場合、「where」を使うことで代用できます。このときの「where」は、関係副詞と呼ばれるもので、文法の授業で出てきた記憶があるかもしれません。
特に、日本語から英語に翻訳する場合、前後の文脈だけで、その場所の状態を判断し、使う用語を確定する必要があります。そのとき「前置詞+関係代名詞」を使う必要がある場合、例えば「on which」,「in which」、「at which」のいずれを使うのか、慣れないうちは、一瞬とまどうこともあります(とくに原文があいまいな場合や状況が文脈だけではわかりにくい時など)。そこで活躍するのが、「where」です。
b. 関係副詞「where」の成り立ち
文法的な内容にはあまり触れませんが、一応、関係副詞「where」の成り立ちについて「in which」を例にとってみてみます。
This is the city + I was born in this city
↓
This is the city in which I was born.
↓
This is the city where I was born.
*基本的には、「前置詞+関係代名詞」に関係副詞「where」を使えるのは、それが場所を表す場合です。
「on which」の場合については、
There is a beautiful lawn. + Many flowerpots are placed on the lawn.
There is a beautiful lawn on which many flowerpots are placed.
→ There is a beautiful lawn where many flowerpots are placed.
なを、ここで取り上げた「on which」、「in which」、「at which」については、例えば、時間を表す文章と合体させる場合は、当然、場所を表す「where」は使えません。
c. 英文契約書での場所を表す「where」の使い方の例
The Buyer shall be entitled to visit the places in which the Products are manufactured and stored.(買主は、製品が製造され、保管されている場所を訪問する権利が与えられている)
この文章は、whereを使うと以下のようになります。
→ The Buyer shall be entitled to visit the places where the Products are manufactured and stored.
この文章は、分けると以下のようになります。
The Buyer shall be entitled to visit the places. The Products are manufactured and stored in the places.
以下、同様に、
The seller shall designate the bank account in which the fee is paid.(売主は、手数料が支払われる銀行口座を指定する)
→ The seller shall designate the bank account where the fee is paid.
The entrustor shall designate the place in which the Project is performed.(委託者は、プロジェクトが実施される場所を指定する)
→ The entrustor shall designate the place where the Project is performed.
本来の趣旨とは違いますが、「on which」が場所を表す場合の適当な例が思い浮かばないので、とりあえず時間を表す例文にしてみました。
The board of directors shall record the date on which the name of each Shareholder was entered in the register of members. (取締役会は、各株主の氏名が会員登録簿に記載された日付を記録する)
(1) whichについてのあれこれ
「~ which」の「which」は、疑問詞ですが、疑問文で使うときのように「~の中からどれですか?」と聞いているのではなく、「あるものの中からどれか?」ということを聞いています。2つの文章の中に共通するものがある時「which」でつなげて、文章を1つにするために使います。この場合、共通するものとは、「モノ」を対象にしており、「人」を対象にすることはありません。ご存知だと思いますが、人を対象にする場合は、「who」を使います。
上記の説明のように、「in which」、「at which」、「on which」の場合では、共通してどこ、どの場所の内のどれかを指すことになります。whichの前の前置詞は、何を選ぶかと言うと、inは、「~の内部」、atは、「~の一つの点、時間」、onは、「~に接触している、日」等があります。その他の前置詞も状況に応じて使用することができます。
「in which」の場合は、その意味は、~の中に、それに、これにとなります。
This is my grandmother’s house. She lives in the house. この文章を「in which」で結び付けてみると以下の様になります。
This is my grandmother’s house in which she lives. 「house」という共通する言葉を見つけて、2つの文章を結合しました。
「at which」の場合は、その意味は、~において、~の時点でとなります。
the facilities at which Goods are manufactured. (「商品」を製造する施設)
「on which」の場合は、
in relation to an Award means the date on which the Award is granted; (報奨に関連して報奨が与えられた日を意味する。)「
whichについて触れなければならに事柄の1つに、「制限用法」と「非制限用法」があります。
(b) 制限用法と非制限用法の違いとは。
文章を見ていると、同じ文章にただ、「カンマ区切り」があるだけとしか見えないわけでもありません。
そうであったら、「制限用法(restrictive of relative pronoun use)」、「非制限用法(non-restrictive of relative pronoun use)」などと大袈裟な名称は付けません。とにかく、restrictive、つまり、imposing restrictions or limitations on someone or somethingですから、制限をかけるのですから、当然、その意味があるはずです。
制限用法と非制限用法を簡単な文章で説明してみます
(1) 制限用法の場合、
I need someone who shows me the way. (私に道を教えてくれる人が必要です。)
ここでは、「(道に迷ったから、)行くべき道を教えてくれる人が必要です」の意味です。
制限用法では、someoneを対象として、どういう人であるか説明しています。
whoという関係詞に先行するsomeoneを修飾して、対象を絞り込んでいます。
(2) 非制限用法の場合では、
I met the man, who showed me the way to go.(男の人に会った。その人が行く方向を教えてくれた)
先行詞について補足的に説明しています。
この文章は、I met the man. He showed me the way to go.とすることができます。
「男の人に会った(道を聞くつもりはなかった)。その人が行く方向を教えてくれた。」となります。
non-restrictiveですから、その男の人に限定しているわけではありません。
参考図書
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
前置詞活用辞典(三省堂)他