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英文契約書の単語・用語 「発効」と「有効」について

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今回は、「発効」と「有効」について簡単に触れてみたいと思います。この言葉は契約書に限らず、法律文書では定番の用語です。例えば、「発効」は、法律、契約、条約を問わず、これらは発効させなければその効力を生じません。発効の意味を改めて確認すると、「発効」とは、「法律や規則などの*効力が発生すること」とされています。(*一般に、一定の働き、効果を及ぼすことができる能力)

発効という言葉がくると「有効」という言葉が浮かびます。「発効」と関連性がある言葉なので、一応触れておきます。

「有効」は、法律、契約、条約等の法律文書で使われる場合の意味は、「法律上の効力をもっていること」ですが、例えば、以下に作成した例文のように、多くの分野で日常的に使われています。

Turn on control power again to make the self-inspection function becomes effective.

(制御電源を再度ONにして、自己点検機能を「有効」にします。)

The operator can stop the machine immediately, which is effective after its initialization.

(オペレータは装置をすぐに停止できます。これは、装置の初期化後に「有効」になります。)

この場合の「有効」は、一般的に「効果をもたらす能力がある」の意味です。

1.   発効、有効を表す主な英語表現(主に契約書・法律文書)の例:

有効な:「effective」、「valid」、「efficacious」、「available」、「effectual」など

有効になる:「become effective」、「come into effect」、「take effect」など

発効する:「become effective」、「come into effect」

有効である:「be effective」、「be valid」、「be available」など

 

2.  英文契約書などでの使われ方の例

「発効」と「有効」について作成した例文をとおして、知っておくと便利な英文契約書でのいくつかの使われ方を作成した例文(法律文書を除く)などを通して、契約書翻訳の観点から見てみます。

The termination of this Agreement shall be effective immediately upon a delivery of notice of termination thereof from the Licensee to the Licenser. (本契約の解除は、ライセンシーからライセンサーへの解除通知の送達と同時に発効する(有効になる))

The Services provided by this Agreement shall be performed in an efficient and effective manner. (本契約により提供されるサービスは、効率的かつ効果的な(有効な)方法で実行される)

If the Buyer purchases the goods under this Agreement from the Supplier, the Buyer shall pay to the Supplier the amount specified in valid taxable invoice. (買主がサプライヤーから本契約に基づいて商品を購入する場合、買主は、有効な課税対象の請求書に指定された金額をサプライヤーに支払う)

This Agreement is valid for any and all transaction between the parties of this Agreement.(本契約は、本契約の両当事者間のあらゆる取引に対して有効である)

The effective period of a Long-Term Care Support Specialist Certification shall be renewable by the submission of an application. (介護支援専門員証の有効期間は、申請により更新する)(介護保険法)

発効、有効を表す主な英語表現の中で、よく使われるもののひとつに「become effective」の表現があります。「発効する」、「有効になる」の意味です。いずれの表現をどのように使うかは、文脈によります。

This Agreement shall become effective upon acceptance by the Recipient.(本契約は、受領者が承認した時点で発効する(有効となる)。)

The merger shall become effective upon the completion of the procedure for merger.(合併は、合併手続が完了したときに発効する(効力を生ずる))

This Agreement shall become effective as of xxxxx, 20xx and expire on xxxx, 20xx (本契約は、20xx年 xxxxxに発効し、20xx年 xxxxxに満了する)

「become effective」を使わないでも以下のようにすることもできます。

This Agreement shall be effective as of the date of execution of this Agreement. (「本契約は、本契約の署名日の時点において発効する」

だいぶ前になりますが、「有効」「無効」等について書いたことがあります。今回は、その時の内容の補足です。

 

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

契約書翻訳

英文契約書の用語・単語    「前置詞+関係代名詞」とりあえずのまとめ

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今回は、以前掲載した「英文契約書の用語・単語「前置詞+関係代名詞」」に加筆した内容です。
実際に英文契約書でみかける関係代名詞の多くは、「前置詞+関係代名詞」のパターンです。この場合、一般的に前置詞は目的格のwhich、whomのような関係代名詞の前に置かれます(thatを除く)。

前置詞+関係代名詞」の成り立ちを見てみます。

This is my brand-new smartphone.    I was telling you about it.

上記の2つの文を1つにまとめると、以下になります。

This is my brand-new smartphone about which I was telling you.

このとき「I was telling you about it」に「it」は、「about」の目的語(「~を」「~に」の「~」にあたる言葉。動詞の動作が及ぶ対象や動作の目的を示す言葉。この場合、aboutは、動詞ではありませんが、「about=~について」の意味で「~」にあたる部分(aboutが指し示す対象物)は「it」)

文法書の説明では、「関係代名詞に導かれる節で、関係代名詞が前置詞の目的語になるときは、前置詞は関係代名詞の前に置かれる」と解説されています。

なを、前置詞が文末に置かれることもあります。いずれにしてもここでは、「前置詞+関係代名詞」の文法的な成り立ちではなく、具体的な使われ方を取り上げてみたいと思います。

関係代名詞の成り立ちにつては、英文契約書の関係代名詞(その1)https://www.ings-web.co.jp/archives/5145に簡単な説明があります。

1.「前置詞+関係代名詞」のパターン

「前置詞+関係代名詞」の例としては、以下のような様々なパターンがあります(これ以外にもあります)。

with which、from which、above which、after which、against which、among which、around which、at which、below which、between which、beyond which、by which、by means of which、during which、for which、from which、in which、into which(その中に)、of which(その)、on which、out of which、over which、to which、through which、under which、upon which等、様々なものがあります。

 

今回は、上記の中から、多くみかけるfrom which(*そこから)、in which(*その中に)、of which(*その)、on which(*その上に)を例にとります。

2.  「前置詞+関係代名詞」の成り立ち

「from which」

This is Monet’s masterpiece. + He was inspired from Monet’s masterpiece.

This is Monet’s masterpiece from which he was inspired.

She is trying to find an apartment. + Her office is within a short walking distance from an apartment.

She is trying to find an apartment from which her office is within a short walking distance.

「in which」

This is the place. + We lived in the place in my childhood.

This is the place in which we lived in my childhood.

I love spring. + Many beautiful flowers bloom in spring.

I love spring in which many beautiful flowers bloom.

「of which」

This is the lake. Water of the lake is very cold and clear.

This is the lake of which water is very cold and clear.

There are a lot of words. + I don’t know the meaning of those words.

There are a lot of words of which I don’t know the meaning.

「on which」

The water surface inside the reef is calm. + I floated a boat on it.

The water surface inside the reef is calm on which I floated a boat

It was said that the country on which the sun never sets.

*from which(そこから)、in which(その中に)、of which(その)、on which(その上に)について、( )内に一応の暫定訳は付けましたが、「前置詞+関係代名詞」は、文章の一部であり、実際には前後の文脈により、適切な訳語が必要とされるので、上記の暫定訳が当てはまらない場合も多く、これらの暫定訳はあくまで参考程度です。

3. 英文契約書の例

英文契約書でみかける「前置詞+関係代名詞」の例文を契約書翻訳の観点から作ってみました。

This Agreement may be executed in several counterparts, all of which will constitute one agreement. (本契約は、複数の正副本を作成することができる。これらのすべては、1個の契約を構成する)

The Buyer shall return to the product to the shop from which the Buyer acquired it within thirty (30) day after the purchase thereof if he or she desires to return the purchased product. (購入者が、購入した製品の返品を望む場合、購入後30日以内に製品を購入した店舗に製品を返品する)

The shareholder registry shall record the date on which the name of each Shareholder was entered in it and the date on which he or she ceased to the Shareholder. (株主名簿には、各株主の氏名が記載された日付と、株主が辞任した日付を記録する)

The entruster shall notify the trustee of the manner in which the equipment is used prior to the commencement of the Service. (委託者は、役務を開始する前に機器の使用方法を受託者に通知する)

「前置詞+関係代名詞」について、ざっと見てきました。文法的な部分にはできるだけ立ち入らないようにしました。関係代名詞については、上記でとりあげたほかに、「who」、「whose」とか「that」や、例えば、場所を表すもの、例えば「on which」、「in which」などは、場合により「where」を使って表すこともできます。

4.  「前置詞+関係代名詞」と「関係副詞」

a.  関係副詞について

例えば、「on which」,「in which」、「at which」などが場所を表す場合、「where」を使うことで代用できます。このときの「where」は、関係副詞と呼ばれるもので、文法の授業で出てきた記憶があるかもしれません。

特に、日本語から英語に翻訳する場合、前後の文脈だけで、その場所の状態を判断し、使う用語を確定する必要があります。そのとき「前置詞+関係代名詞」を使う必要がある場合、例えば「on which」,「in which」、「at which」のいずれを使うのか、慣れないうちは、一瞬とまどうこともあります(とくに原文があいまいな場合や状況が文脈だけではわかりにくい時など)。そこで活躍するのが、「where」です。

b.  関係副詞「where」の成り立ち

文法的な内容にはあまり触れませんが、一応、関係副詞「where」の成り立ちについて「in which」を例にとってみてみます。

This is the city  +  I was born in this city

This is the city in which I was born.

This is the city where I was born.

*基本的には、「前置詞+関係代名詞」に関係副詞「where」を使えるのは、それが場所を表す場合です。

「on which」の場合については、

There is a beautiful lawn.  +  Many flowerpots are placed on the lawn.

There is a beautiful lawn on which many flowerpots are placed.

→ There is a beautiful lawn where many flowerpots are placed.

なを、ここで取り上げた「on which」、「in which」、「at which」については、例えば、時間を表す文章と合体させる場合は、当然、場所を表す「where」は使えません。

c. 英文契約書での場所を表す「where」の使い方の例

The Buyer shall be entitled to visit the places in which the Products are manufactured and stored.(買主は、製品が製造され、保管されている場所を訪問する権利が与えられている)

この文章は、whereを使うと以下のようになります。

→ The Buyer shall be entitled to visit the places where the Products are manufactured and stored.

この文章は、分けると以下のようになります。

The Buyer shall be entitled to visit the places.  The Products are manufactured and stored in the places.

以下、同様に、

The seller shall designate the bank account in which the fee is paid.(売主は、手数料が支払われる銀行口座を指定する)

→ The seller shall designate the bank account where the fee is paid.

The entrustor shall designate the place in which the Project is performed.(委託者は、プロジェクトが実施される場所を指定する)

→ The entrustor shall designate the place where the Project is performed.

本来の趣旨とは違いますが、「on which」が場所を表す場合の適当な例が思い浮かばないので、とりあえず時間を表す例文にしてみました。

The board of directors shall record the date on which the name of each Shareholder was entered in the register of members. (取締役会は、各株主の氏名が会員登録簿に記載された日付を記録する)

(1)  whichについてのあれこれ

「~ which」の「which」は、疑問詞ですが、疑問文で使うときのように「~の中からどれですか?」と聞いているのではなく、「あるものの中からどれか?」ということを聞いています。2つの文章の中に共通するものがある時「which」でつなげて、文章を1つにするために使います。この場合、共通するものとは、「モノ」を対象にしており、「人」を対象にすることはありません。ご存知だと思いますが、人を対象にする場合は、「who」を使います。

上記の説明のように、「in which」、「at which」、「on which」の場合では、共通してどこ、どの場所の内のどれかを指すことになります。whichの前の前置詞は、何を選ぶかと言うと、inは、「~の内部」、atは、「~の一つの点、時間」、onは、「~に接触している、日」等があります。その他の前置詞も状況に応じて使用することができます。

「in which」の場合は、その意味は、~の中に、それに、これにとなります。

This is my grandmother’s house.  She lives in the house. この文章を「in which」で結び付けてみると以下の様になります。

This is my grandmother’s house in which she lives. 「house」という共通する言葉を見つけて、2つの文章を結合しました。

「at which」の場合は、その意味は、~において、~の時点でとなります。

the facilities at which Goods are manufactured. (「商品」を製造する施設)

「on which」の場合は、

in relation to an Award means the date on which the Award is granted; (報奨に関連して報奨が与えられた日を意味する。)「

whichについて触れなければならに事柄の1つに、「制限用法」と「非制限用法」があります。

 

(b) 制限用法と非制限用法の違いとは

文章を見ていると、同じ文章にただ、「カンマ区切り」があるだけとしか見えないわけでもありません。

そうであったら、「制限用法(restrictive of relative pronoun use)」、「非制限用法(non-restrictive of relative pronoun use)」などと大袈裟な名称は付けません。とにかく、restrictive、つまり、imposing restrictions or limitations on someone or somethingですから、制限をかけるのですから、当然、その意味があるはずです。

制限用法と非制限用法を簡単な文章で説明してみます

(1) 制限用法の場合、

I need someone who shows me the way. (私に道を教えてくれる人が必要です。)

ここでは、「(道に迷ったから、)行くべき道を教えてくれる人が必要です」の意味です。

制限用法では、someoneを対象として、どういう人であるか説明しています。

whoという関係詞に先行するsomeoneを修飾して、対象を絞り込んでいます。

(2) 非制限用法の場合では、

I met the man, who showed me the way to go.(男の人に会った。その人が行く方向を教えてくれた)

先行詞について補足的に説明しています。

この文章は、I met the man.  He showed me the way to go.とすることができます。

「男の人に会った(道を聞くつもりはなかった)。その人が行く方向を教えてくれた。」となります。

non-restrictiveですから、その男の人に限定しているわけではありません。

参考図書

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

前置詞活用辞典(三省堂)他

 

契約書翻訳

英文契約書の用語・単語  Anti-Bribery-贈収賄の禁止(わいろの防止)とResiduals-残存記憶情報(残滓情報)に関する条項

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国際ビジネスを行う上で英文契約書の理解は必須の要素の一つです。それを身に着けるにはそれなりの時間と努力が必要です。以前に比べ、最近はこの分野についてかなり充実した内容が記載されている解説書や参考書も多く見受けられます。英文契約書についての知識を体系的に身に着けるには、それらの解説書や参考書に取り組まれることが英文契約書の理解への近道だと思います。

本ブログは、英文契約書についての体系的な内容ではなく、経験的にとりあえず覚えておいて損はない英文契約書で使用される用語、単語を思いつくままにとりあげています。

今回は、英文契約書の条項、その中でここ10年ほどに良く見かけるようになったものや、以前から気になっていたものを、英文契約書翻訳の視点からいくつか思いつくままにとりあげてみます。

1. Anti-Bribery-贈収賄の禁止(わいろの防止

「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」が1999年2月に発効し、不正競争防止法の改正により実施されていますが、この条約は、日本の他、43ヵ国が加盟し、その関係からか「Anti-Bribery」という条項が記載される契約書翻訳が回ってきます。

例として、以下に簡単な例文を作成してみました。

Either party hereto agrees that it will conduct its business in compliance with all applicable local and foreign anti-bribery laws. (本契約のいずれの当事者も、適用されるすべての現地および外国の贈収賄防止法に準拠して事業を行うことに同意する。)

Distributor shall comply fully with all laws applicable to the sale and distribution of the Products, including but not limited to the United States Foreign Corrupt Practices Act, local anti-corruption laws and laws prohibiting the payment of commercial or private bribes.(「販売店」は合衆国海外腐敗行為防止法および地域の腐敗防止法ならびに商業もしくは個人的わいろを禁止する法律を含み、これらに限定されることなく、「製品」の販売と流通に適用されるすべての法律を完全に順守する。)

実際には当事者・関係者間の賄賂の支払に相当する、関係する行為について詳細に規定しているケースが多く見られます。これらの内容については、専門の解説書や参考書を参照することをお勧めします。

  1. Residuals-残存記憶情報(残滓情報)

一般に、機密保持契約において開示者の機密情報にアクセスした受領者の記憶に残る開示者の機密情報を意味します。これは以前からある事柄で、「機密保持条項」の一部として取り上げられるほか、Residualsとして独立した項目として記載される場合もあります。大事な事柄ですが、この内容が記載されているケースは以外と少ないようです。契約書によっては、この内容が事細かに記載されている場合あります。なを、以下に作成した例文は、「Residuals-残存記憶情報(残滓情報)」について簡単にまとめたものです。

Residuals” means the information in intangible form, that is retained in memory by persons who have had access to the Confidential Information, including without limitation ideas, concepts, know-how, or techniques contained in Confidential Information.(「残存記憶情報」とは、無形の様態における情報で、機密情報にアクセスした人物の記憶に保持されるものを意味し、機密情報に含まれる発案、概念、ノウハウまたは技術を含み、これらに限定されないものとする)

この条項は、基本的には、受領者の記憶に保持された機密情報を,受領者が使用することを認めるものですが、当然、開示者にとっては、これはリスクとなるわけで、経験的にはその使用について開示者の許可を必要とすると規定する場合が一般的なようです。

色々なパターンがありますが、「自由に使用できる場合」、「自由に使用できると言いつつも許可が必要な場合」の例文を作成してみました。

The Recipient may use and disclose the Residuals for any purpose without paying royalties and without any other obligations or restrictions.(受領者は、実施料を支払うことなく、またその他のいかなる義務および制限なしに、いかなる目的に関しても「残存記憶情報」を使用し、開示することができる)

The Recipient may use the Residuals for any purpose without any restrictions; provided, however, that the Recipient may not disclose it except as expressly permitted pursuant to the terms of this Agreement. (受領者は、いかなる制限もなしにいかなる目的に関しても「残存記憶情報」を使用できる。ただし、受領者は、本契約の条件に従って明示的に許可されている場合を除き、それを開示することはできない)

Residualsについての考え方は、業界により異なるようです。ブログで扱うには微妙な問題ですが、以前から興味があったので簡単に取り上げてみました。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
英文契約書の読み方(日経文庫)他

 

 

 

契約書翻訳, 契約書英訳

英文契約書の単語・用語 dischargeについて

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前回、「「履行」を意味する「performance」以外の英単語として「fulfillment」をとりあげましたが、それ以外にも、「履行する」またはそれに類する意味を持つ単語として、implement、carry out、execute、discharge等があります。」ということを書き、この中で「dischargeは内容がやや複雑になるので機会をあらためて」としました。

「discharge」はさまざま意味を持つ言葉ですが、辞書を見ると「discharge」には、discharge one’s duties( 職責を果たす)とかdischarge one’s duties [responsibility](義務[責任]を果たす)、「(なすべきことを)遂行する,履行する」、He discharged all his debts.(彼は借金を全部返済した)という意味があることが書かれています。これらは動詞ですが、名詞の場合にも「(義務の)履行・遂行」の意味で使われる場合があります。(例:債務の)履行,償還)

経験的にも「履行する」という意味で「discharge」が使われている英文契約書を目にしたこともそれなりにあります。

以下に例文を作ってみました。

The guarantor shall be a principal debtor who discharges the obligations under this Agreement. (保証人は、本契約に基づく義務を履行する主たる債務者とする。)

The Contractor shall discharge his or her duties set forth in this Agreement and perform the undertakings specified in the separate contract. (請負業者は、本契約に定める義務を履行し、別の契約に定める業務を履行する)

ところが、「discharge」が持つ意味の1つに「免責する」、「免責」があります。

The Contractor may not be discharged from the duties specified in this Agreement even if a natural disaster occurs. (自然災害が発生しても、契約者は本契約に定める義務を免責されない)

The debtor, if he/she has filed a petition for grant of discharge, may not file a petition set forth in Article 218 (1) or a petition for commencement of rehabilitation proceedings.(債務者は、免責許可の申立てをしたときは、第二百十八条第一項の申立て又は再生手続開始の申立てをすることができない)(破産法)

そほかにも主なものだけでも「discharge」は、以下のような意味があります。

discharge(動詞):退院させる、解雇する、除隊させる、釈放する、(裁判所の命令を)取り消す、(積み荷・乗客などを)降ろす、(商品を)送り出す、荷揚げする、(荷を)降ろす、(煙・廃棄物などを)排出する、放電する、(負担が)解消される等、さまざまな意味があり、名詞についても同様です。

例えば、Exhaust gas discharge system(排出ガス排出システム)、Safety precautions shall be observed when discharging the battery.(バッテリーを放電するときは、安全上の注意事項を守ってください。)、The Contractor shall discharge a cargo from a ship(請負業者は貨物を船から降ろす)

The chimney of the house discharged smoke.

The Arakawa River discharges its waters into the Tokyo Bay.

Coal-fired power plants discharge(emit)a lot of carbon dioxide.

The train discharges all passengers at the terminal station.

日常的には、むしろ上記のような意味で使われるケースが多いはずです。

ざっと見ただけでもさまざまな意味を持つ「discharge」ですが、英文契約書に記載されている「discharge」が「履行する」、「(責任)を果たす」という意味を持つかについては、いつものことですが、文脈的に把握する必要があります。(例えば、文脈的に「discharge one’s duties [responsibility]」のよう意味をなしているか等)。

これは、英文和訳の例ですが、日本語の契約書を英語に訳す(契約書の英訳)の場合、日本語の「履行する」、「(責任)を果たす」という文章の英訳をする場合、さまざまな意味を持つ「discharge」をつかわなくても、perform, implement, implement、carry out、execute、fulfill等を使うのが安全かと思います。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
日本法令外国語訳データベースシステム

 

契約書翻訳

英文契約書の単語・用語 exceptについて

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契約書翻訳の視点から、前回は除外することがらを導く成句「unless otherwise」について見てみましたが、同じく除外することがらを導く単語に「except」があります。一般に他の単語との組み合わされることにより、以下に記載するような成句として使用されます。英文契約書翻訳の視点から見てみます。「unless otherwise」も「except」のいずれも和訳英訳を問わず英文契約書にはかかせない、覚えておくと便利な言葉です。

1. exceptを使用した成句

「except」単体の持つ主な意味は、辞書をみればわかるように「~を除いて」、「~の他」、「~以外は」等です。

all of my friends passed the examination except me.(私を除いて私の友人は全員試験に合格した)

I work every day this week except Sunday.

すでに述べたように「except」は、英文契約書に限らず、一般に他の単語との組み合わされた以下のような成句として使用されます。

except+動詞の原形:~する以外は

except+to 動詞の原形~: ~する以外は

except for:~を別にすれば、 ~以外の点では、

except from: ~から除外する

except that~:ただし、~を除いて=unless

except where~: ~の場合を除き

except when~: ~の時以外は、~の時を除き、

その他、except upon、except+前置詞句、except+副詞句、except asなどがあります。

いずれも辞書に記載されている事柄ですが、今回は、英文契約書で使用される場合の用例を作成した例文をとおして簡単に見てみたいと思います。

2.  英文契約書と法律文で使用される場合の用例

The RECIPIENT may not acquire any intellectual property rights under this Agreement except the following limited rights. (受領者は、以下の制限付き権利を除き、本契約に基づいて知的財産権を取得することはできない)

Except as provided for in this Article, the Contractor must not disclose the information learned in the course of performance of this Agreement to third parties. (本条に規定されている場合を除き、契約者は、本契約の履行過程で知り得た情報を第三者に開示してはならない)

Except as otherwise provided for in this Agreement, either party hereto may continue to hold its own title for its existing rights, privileges, powers, licenses, permits and intellectual property rights of whatever nature. (本契約に別段の定めがある場合を除き、本契約のいずれの当事者も、既存の権利、特権、権限、ライセンス、許可、およびいかなる性質の知的財産権についても引き続き独自の所有権を保持することができる)

これは、「unless otherwise」を使い「Unless otherwise provided for in this Agreement,」とすることもできます。

The supplier shall deliver the products in timely manner based on the schedule attached to this Agreement except to the following events. (サプライヤーは、以下の場合を除き、本契約に添付されたスケジュールに基づき適時に製品を納品する)

Either party hereto shall not have the right to assign its rights and obligations under this Agreement without a prior written consent of the other Party, except that a party shall have the right to assign this Agreement in the event of a merger or an acquisition that all or substantially all assets thereof is acquired by a successor. ( 本契約のいずれの当事者も、他方当事者の事前の書面による同意なしに、本契約に基づく権利および義務を譲渡する権利を有しない、ただし、合併または買収により、本契約のすべてまたは実質的にすべての資産が承継人によって取得される場合、当事者は本契約を譲渡する権利を有する)

A judgment rendered with regard to an action to oppose bankruptcy claim assessment, except where the action is dismissed as unlawful without prejudice, shall approve or change the order on the petition for bankruptcy claim assessment. (破産債権査定異議の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、破産債権査定申立てについての決定を認可し、又は変更する)(破産法

幾つかの例文をあげましたが、これ以外にも「except」や「unless otherwise」を使用したさまざまな用法があります。 英文契約書や法律文ではなくてはならない言葉です。

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
英文契約書の読み方(日経文庫)
日本法令外国語訳データベースシステム

契約書翻訳

英文契約書の単語・用語 implement、carry out、executeについて

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契約書翻訳の視点から前回、英単語「performance」が持つ「履行」という意味について、「performance」が使われている会話や文章の内容と文脈から判断する必要があるという点を中心に、作成した例文を通してその使い方を簡単に見てみました。その中で、「履行」を意味する「performance」以外の英単語として「fulfillment」をとりあげましたが、それ以外にも、「履行する」またはそれに類する意味を持つ単語として、implement、carry out、execute、discharge等があります。今回は、それらについて作成した例文を通して、それらの使い方を見てみます。なを、前回「performance」について「履行」という意味にしぼってみていましたが、当然のことですが実際には、英文契約書や法律文書では、「履行」以外の意味で使われる場合もあります。この点については、
英文契約書の用語・単語 performanceについて(その2)」で、契約書翻訳ではありませんが、内閣府の法令翻訳データベースにある日本の法律文の英訳の中から幾つかの興味深い例をとおしてみてみました、

以前にも述べましたが、確認までに「履行」とは、「一般用語では広く義務を遂行すること。法令では、一般用語の意味で使われるほか、債務者等が債務の内容を実現すること」でした。

英単語の性質としてimplement、carry out、execute、dischargeも、各々がいくつかの意味をもっています。主に「履行」と表現される場合を取り上げますが、それ以外の使われ方についても興味のあるものを取り上げてみます。まずは、これらの単語の持つ主な意味について取り上げ、作成した例文を通してその使われ方を見てみます。

  1. implement (implementation)

Implementは、名詞では、道具、用具、器具             例: farming implements 農具

その他の意味には、手段、手先があります。私見ですが、「道具を使用して、何かの目的を行う、そして、それを達成する」の意味から転用して、以下の動詞の履行する、実施する、遂行する、達成するに繋がったのでは推測します。

動詞としての意味は、(契約・計画などを)履行する、実施する、遂行する、実行する等の意味があります。

We do make effort to implement the license agreement.

I need someone’s help to implement that plan.

Pre due diligence work has revealed the need for the Company A to assist the Company C develop and implement a strategic plan for growth in xxx.(事前の適性評価作業により、C社が、xxxにおける成長戦略の計画を開発し、また、実施するために、A社がC社をアシストする必要があることが判明した。)

The Company will implement terms of service governing use of the Company Website. 会社は、(会社のウエッブサイトの使用を管理する利用条件を履行する)

その他に、(要求・条件等を)満たす、(…に)道具[手段]を与える等の意味があります。.

2. carry out (carrying-out (carrying out))

(…を)達成する、実行する、履行等の意味があります。これらの中でもCarry outは、計画や業務等を「実行する」意味でよく使われます。口語的な表現ではありますが、契約書においても使われます。受動態の形態で使われることも多くみられます。

Shikinen Sengu is carried out every 20 years.(式年遷宮は、20年に一回執り行われます)
Carrying out the mandates assigned to it by the CGF.

How frequently are inspections carried out?

At that time, all its customs affairs will not be able to be carried out.(その時点は、その企業の通関業務のすべてを遂行することはできません)

General effect that the delay is likely to have on the carrying out of the works (業務の実施を遅らせる可能性のある一般的な影響)

be carried out to the best of its skill and ability for the benefit of XXX;( XXXの利益のために最善のスキルおよび能力により遂行されること)

any activities carried out by or on behalf of the Marketing Partner under this agreement;(本契約に基づく「マーケッティングパートナー」により、もしくはその代理により実行された活動)

Carrying out the mandates assigned to it by the Company. (CGFにより割り当てられた委任事項を実行する)

  1. execute (execution)

契約書関連の場合、「計画に則り実行する」意味を持っています。以下に作成した例も契約書では「実行する」の意味で使用されています。なを、ソフトウェア工学の場合で言う「コンピュータで実行する」は、コンピュータ等がそのプログラムの命令を実行することの意味があります。

改めて「execute (execution)」の意味を確認してみます。

executionの名詞形であるexecutionは、実行、実施、遂行、執行、処刑、演技、演奏、(芸術作品などの)制作等の意味があります。

performanceのもexecutionの演技、演奏と同じように、上演、演奏、演技、興行、パフォーマンス、出来栄え、成績、業績、性能という意味がありました。

2つを比較するとexecutionの方が相対的に強い意味を持ち、執行、処刑等と訳すことがあります。では、どうしてその意味が「(死刑の)執行、処刑」になるのでしょうか。それは、executeの語源を見ると判明します。これはex(外)とsequi(続く)が合体した言葉に由来しているexsequi(墓へ続く)というラテン語が原義です。

Each Party represents and warrants that they are duly authorised to execute, deliver and fully perform under this Agreement and that the performance thereof will not conflict with any other agreement.(各当事者は、各当事者が本契約に基づき、履行し、提供し、かつ完全に実行するために正当な権限を与えられたこと、また、本契約の履行が他の合意と対立しないことを表明し、保証する)

WHEREAS, as a condition precedent to the obligations of Buyer to consummate the transactions contemplated by the Asset Purchase Agreement, Member shall execute and deliver to Buyer at the Closing this Agreement;一方、本資産購入契約が目的とする取引を完了するため、購入者の義務に先行する条件として、メンバーは、本契約の締結時に購入者に対し実行し、引き渡す。

The parties hereto agree to execute such further instruments and to take such further action as may reasonably be necessary to carry out the intent of this Agreement.(両当事者は、当該約定を更に実行する(履行)こと、および本契約の意図(目的)を実行(履行)するために適切な必要性に応じ、当該措置を更に行うことに同意する)

なを、冒頭に述べた「discharge」内容がやや複雑になるので機会をあらためて取り上げたいと思います。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)

契約書翻訳

英文契約書の用語・単語 performanceについて(その2)

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契約書翻訳の視点から見た、前回の「英文契約書の用語・単語 performanceについて」の続きです。今回は、契約書ではありませんが法律文の英訳に見る「performance」です。いずれも日本語の法律を英訳したものですが、内閣府の法令翻訳データベースに、「performance」についての幾つかの興味深い例がありました。日本の法律文の英訳に見る「performance」の用法についての視点からになります。この中で「performance」については、日常的に使用される「性能」や「公演」という意味の他に法律の内容や文脈上から「受領」、「履行」、「弁済」、「給付」等の意味で使用されています。いくつかの例を見てみます。(日本語の法律の英訳という視点からみたもので、契約書翻訳の際の何らかの参考になるかはわかりませんが)

  1. performance: 性能・実演

A person who intends to undergo a performance evaluation conducted by the Minister of Internal Affairs and Communications pursuant to the provisions of paragraph (1) must pay the amount of fees which is specified by Cabinet Order in consideration of the actual costs to the State.(第一項の規定により総務大臣の行う性能評価を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を国に納付しなければならない。)(消防法)

A performer has the exclusive right to make that performer’s performance available for transmission. (実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。)(著作権法)

  1. performance: 弁済

When a prima facie showing was made that the petitioner is unable to obtain full performance of the secured claim set forth in the preceding item even by implementing exercise of a security interest against known property.(知れている財産に対する担保権の実行を実施しても、申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。)(民事執行法)

An obligee that has received full performance by way of subrogation must deliver to the subrogee the instruments regarding the claim and any collateral that the obligee possesses.(代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。)(民法)

「弁済」については、以前は、「reimbursement」が一部使われていたような記憶があります。

  1. performance: 受領、履行、弁済

この例では、「performance」を英文の上から「受領」、「履行」、「弁済」としています。

provided, however, that if the obligee refuses to accept that performance in advance or if any act is required on the part of the obligee with respect to the performance of the obligation, it is sufficient for the obligor to request the acceptance thereof by giving a notice that the tender of the performance has been prepared.(ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。)(民法)

ここでは「弁済」が「payment」、「履行地」が「the place of the performance

If the amount of the claim is designated in the currency of a foreign state, the obligor may make the payment in Japanese currency converted with the foreign exchange rate at the place of the performance.(外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。)(民法)

そのほか、「performance」が給付の意味で使われています。

Education assistance shall be provided by way of performance in money;(教育扶助は、金銭給付によつて行うものとする。)

Medical assistance shall be provided by way of performance in kind; (医療扶助は、現物給付によつて行うものとする)

「給付」に対応する英単語は、和英辞典を見ると名詞はpayment、conferment、provision、a benefit(社会保険等の給付)等、動詞はpay、confer、provide等とあります。「performance」は、見受けられません。

そこで、国語辞典で「給付」の意味を調べると「金品を支給・交付すること」、「債務者の債務の内容、および、それを履行する行為」とあります。さらに法律用語辞典を見ると、「一般的には、債権の目的となる債務者の行為」とあり、その内容は、「金銭等の交付、役務の提供」、その性質に応じて、「作為、不作為、可分、不可分、反対、保険の給付」等とあります。

さらに英英辞典を見ると「performance」は以下のように解説されています。

「the action or process or carrying out or accomplishing action, task or function.」

(Source: The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press))

accomplishment or achievement act or carrying out, completion, conduct, consummation, discharge, execution, exploit, feat, fulfillment work.

action conduct, efficiency, functioning, operation, practice, running, working

(Source: COLLINS CONCISE Dictionary (HapperCollins Publishers))

法律英単語を見ると、「契約に従った義務の完全な遂行」とありました。

これらから考えて、あくまでも私見ですが、「金銭等の交付、役務の提供」という意味合いからそれぞれperformance in money(金銭給付)およびperformance in kind現物給付としたのではないでしょうか。

余談ですが、条文は、「給付」を「payment or delivery(金銭等の交付、役務の提供)」として表し、「performance」を弁済の意味で使用している例を見つけました。

 If the obligor is to effect performance in exchange for payment or delivery by the obligee, the obligee may not receive deposited thing without making that payment or delivery.

(債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。)(民法)

今回は、法令翻訳データベースの例を引用しましたが、英単語は1つの単語に様々な「意味を備えています。「performance」に限らず、英単語を翻訳する場合、英文の内容、文脈から、常に慎重に訳出する必要があります。各引用については、著作権法第13条1号から4号の規定によるものです。

参考図書他:

法律用語辞典(有斐閣)

デジタル大辞泉(小学館)

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

法律英単語ハンドブック(自由国民社)

The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)

COLLINS CONCISE Dictionary (HapperCollins Publishers)

法令翻訳データベース著作権法第13条(権利の目的とならない著作物

契約書翻訳

英文契約書の用語・単語 performanceについて(その1)

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契約書翻訳の視点から、今回は、英単語「performance」について見てみます。

英語でも「performance」自体は、日常的に良く使われる言葉です。英単語の例にもれず、主なものをだけでも以下のような意味があります。

(1) 行うこと、遂行、履行 (2) 催し物、余興、興行物、ショー (3) 執行、上演、講演、演奏、芸 (4) 達成、成就、実績、(5) 行動、行為、手順、(6) 行為、偉業、功績、(7) 遂行能力、性能、効率。「パフォーマンス」として日本語として定着しているものもあります(例えば、コストパフォーマンス、パフォーマンス(公演、実演等の意味))。

上記の例からもわかるように、「performance」や「perform」が表す意味は、それらが使われている会話や文章の内容と文脈から判断する必要があります。まずは、日常的に使われている「performance」と「perform」の例をいくつか挙げてみます。

1.  日常的に使われている「performance」と「perform」の例

Through our performance in our business, we would like to contribute to society. (業績)

Our company performs market researches.(行う)

Performance improvement is expected in order to accomplish our objectives.(性能)

We wonder how to improve the performance of this device. (性能)

Performance improvement is expected for our device. (性能)

We strive to develop high-performance xxx products to contribute to society.(性能・機能)

To contribute to society, we develop high-performance xxx products. (性能・機能)

We try to make our xxx products more high-performance.(性能・機能)

2. 契約書や法律文書で使われる例のいくつか

法律関係の英単語辞典で「performance」を見るとまず「履行」(perform:履行する)という意味が目に入ってきます。もちろんこれ以外のさまざまな意味にも使われますが(これについては後述します)、契約書では、一般に代表的な使われ方です。まずは、契約書においてperformanceが「履行」の意味で使われる場合を見てゆきます。その前に「履行」の意味を法律用語辞典で確認すると、「履行」とは、「一般用語では広く義務を遂行すること。法令では、一般用語の意味で使われるほか、債務者等が債務の内容を実現すること」とあります。

a) performanceが「履行」の意味で使われる場合の例

よく見られる例として、xxx of performanceは、performance(履行)の前にof、 inを付け、弁済期/履行期(time of performance)、履行地(place of performance)、履行遅滞(delay in performance)、履行不能(impossibility of performance)等があります。

The Contractor shall perform its services based on the terms and conditions of this Agreement. If the contractor fails to provide the services in the course of the performance of this Agreement, xxx(請負業者は、本契約の条件に基づいてサービスを履行するものとします。 請負業者が本契約の履行の過程においてサービスを提供できなかった場合、xxx)

なを、文脈的にperformance=実行・遂行と訳す場合もあります。

b) performanceが「履行」以外の意味で使われる場合の一例

A performer has the exclusive right to record the sound and visuals of that performer’s performance.(実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。)(著作権法)https://www.japaneselawtranslation.go.jp/en/kwic

c)「履行」を意味する「performance」以外の英単語

ところで、「履行」を意味する「performance」以外の英単語がありますが、今回は、「fulfillment」を見てみます。

履行=「fulfillment」動詞形は、「fulfill」

The Service Provider shall fulfill its obligations in accordance with the terms of this Agreement. (サービス提供者は、本契約の条件に従って義務を履行する。)この部分「shall perform」としても使えます。

If a fund contributor fails to fulfill their commitment to contribute, the subscription to funds ceases to have effect. (基金の引受人が拠出の履行をしないときは、基金の引受けは、その効力を失う。)(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)https://www.japaneselawtranslation.go.jp/en/kwic

The Seller shall reserve sufficient production capacity and maintain sufficient inventories to promptly fulfill orders.(売主は、注文を迅速に履行するために十分な生産能力を確保し、十分な在庫を維持する)

なを、当然ですが文章の内容と文脈から「fulfill」=「履行する」とはしないこともありあます。

思いつきですが、2つほど例文を作ってみました。

The Supplier shall maintain at its own expense a sufficient amount of spare parts adequately to fulfill the needs of its customers.(サプライヤーは、顧客のニーズを満たすのに十分な量の予備部品を自費で維持する)

以下の例では「perform」と「fulfill」入れ替え可能ですが、見た感じ、収まりが良いので、この形にしてみました。

The Contractor shall perform the services set forth in this Agreement and fulfill all other obligations specified herein.

fulfill」は「performance」と同様に「実行・遂行」とされる場合もあります。

Procedures for the Fulfillment of Rights.(権利の実行の手続き)

Recommendation to Fulfill Obligations(義務履行の勧告)

いずれも「(独立行政法人国民生活センター法)」から引用

そのほか、implementation、carry out、execute, discharge等も文章の内容と文脈から「履行」、「実行」、「遂行」と訳される場合があります。これらについては、別の機会に見てみたいと思います。また、今回は、「performance」について「履行」とい意味にしぼってみていましたが、当然のことですが実際には、英文契約書や法律文書では、「履行」以外の意味で使われる場合もあります。この点については、別の機会に述べます。

参考図書他:

法律用語辞典(有斐閣)

デジタル大辞泉(小学館)

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

法律英単語ハンドブック(自由国民社)

The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)

COLLINS CONCISE Dictionary (HapperCollins Publishers)

法令翻訳データベース

契約書翻訳

英文契約書の条項:準拠法条項と紛争解決条項について

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契約書翻訳の視点から今回は、英文契約書の準拠法条項(Governing Law)と紛争解決条項(Settlement of Dispute)についてからみてみます。

  1. 準拠法

「準拠法」の意味を法律用語辞典で見ると、「渉外的法律関係に適用される法として国際私法により適用される法」とあります。ついでに「国際私法」を見てみると「渉外的法律関係に適用される法を指定する法。複数の国の法律のうち準拠法を選び出し、法律の抵触を解決するもの」とあります。準拠法条項は、どこの国の法律を契約書の解釈のもととするかを規定します。国際取引に関する契約書では、その分野を問わず必須の条項です。

以下に、日本の法律を準拠法とする例文を作成しました。

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.

(本契約は、日本法に準拠し、同法により解釈される)

外国の法律を準拠法とする場合、例えば、米国のカリフォルニア州の場合「the laws of Japan」、の部分が「the laws of California, the United State of America」等となります。また、時として、「without reference to conflict laws of principles」などと抵触法の原則にかかわる一文を追加することも良くみられます。

  1. 紛争解決条項

一般に紛争解決条項は、仲裁条項(Arbitration)と合意裁判管轄条項(Jurisdiction)があり、契約では、一般にそのいずれかが規定されます(この2つが規定される場合もあります)。

a. 仲裁条項

仲裁の意味は、「一般に当事者の合意に基づき第三者の判断により当事者間の紛争を解決すること」です。仲裁は、裁判所ではなく仲裁に紛争を付託することを当事者が選択する場合です。仲裁については、以前からの仲裁契約の準拠法の問題やそれ以外の事柄につき様々の議論がありますが、ここでは単に知っておくと便利は「仲裁条項」の文例に留めます。

仲裁条項には、様々なものがあります。仲裁機関も様々で、例えば、国際商工会議所(The International Chamber of Commerce: I.C.C)、国連国際商取引法委員会、その他の仲裁機関によるもの、被告地主義を採用するもの等もあります。以下に作成した例文は、簡単なものですが、日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association)の仲裁規則により仲裁を行う場合の一例です。

If the Parties are unable to resolve their dispute through bona fide negotiations, all disputes, controversies or claims arising out of this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the commercial arbitration rules of the Japan Commercial Arbitration Association in Tokyo under laws of Japan. (両当事者が、誠実な交渉による係争の解決をなし得ない場合、本契約から生ずるすべての係争、論争もしくは申し立ては、日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従い、日本法の下で、東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。)

そのほか、原文が日本語の契約書を英訳する場合、単に「紛争を話し合いで解決する」との内容の記載が以下に作成した例文のような形式で規定されていることが、ごくまれにですが見ることがあります。

The Parties shall use their best efforts, in good faith, to amicably settle any dispute arising out of or in connection with the interpretation, execution and performance of this Agreement.

やはり紛争解決の合意規定としては、仲裁機関と適用規則を記載するのが良いのでは考えます。

b. 合意裁判管轄条項

一般には、契約上の紛争に際して、仲裁よりも裁判のほうが適切とされる場合に使われるようです。この条項にも様々なものがありますが、ここでは以下に作成したものを例文としてみました。

This Agreement shall be governed by the laws of Japan and any dispute in relation to this Agreement shall be brought in the Tokyo District Court as the exclusive competent court for the first trial.(本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争の第一審の専属管轄裁判所は、東京地方裁判所とする。)

各例文は、いわば定型文(すべてがこの形式のそのままではありませんが)に近いものです。覚えておいて損はないと思います。

英文契約書の解釈や海外の取引先との取引内容について疑問がある場合、やはり専門家のアドバイスを受けるのが正解でしょう。特に海外の法律が絡む問題は、専門家でなければわからないと思います。法律事務所等は敷居が高い感じがしますが、たいていの場合、親切に相談を受けてくれます。もちろん料金はそれなりですが、経験的には料金に見合った回答やアドバイスを受けられます。それでもという方にはJETROなどに質問してみるのも良いかと思います。また、以前租税条約がからむ案件の引き受けの有無を検討したときは、JETROと弊社に税務をお願いしている税理士さんに相談したところ、いずれからも適切な回答をいただいた記憶あります。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

法律英単語ハンドブック(自由国民社)

契約書翻訳

英文契約書の条項 一般条項:「Entire Agreement」(最終性条項)」とNotice(通知条項)」

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以前投稿した「英文契約書の一般条項」(その1からその3)に加筆・修正した内容を2回に分けて投稿しています。2回目は、「Entire Agreement」(最終性条項)」とNotice(通知条項)」についてです。契約書翻訳の視点から見てみました。

1. 「Entire Agreement」(最終性条項)

英文契約書における書面重視の考え方を体現した条項です。英文契約書を、ある事柄について契約を行う場合、その契約書作成に至るまでの文書、口頭における当事者間の了解事項は、すべて契約書に集約され、当事者間の最終的な合意を記載した唯一ものとして位置づけます。「最終性条項または完全なる合意」とも称されます。

書き方は、さまざまですが、いずれも内容的には上記の趣旨を体現したものです。以下に例文をつくってみました。

「Entire Agreement」(最終性条項)の一例

「This Agreement constitutes the entire agreement, and supersedes, whether orally or in writing, all prior agreements and understandings of the parties hereto with respect to the subject matter hereof, and cannot be amended or otherwise modified except in writing executed by the parties hereto. (本契約は、最終的合意を構成し、口頭・書面によるものを問わず、本契約の主題に係わる本契約の両当事者間のすべての以前の合意と了解に優先し、また、本契約の両当事者が署名・捺印した書面による場合を除き、修正、または他の方法により変更することはできない。)この中で、「and supersedes, whether orally or in writing, all prior agreements and understandings of the parties hereto with respect to the subject matter hereof,」の部分が、口頭排除の原則(Parol evidence rule)を確認する文言です。書き方はさまざまです。

とことろで、上記の例文の中で、「本契約の両当事者が署名・捺印した書面による場合を除き、修正、または他の方法により変更することはできない。」とありますが、これは、契約の内容は、例えば当事者間の了解により変更されることがあるということです。この変更の内容は契約に記載の担当者や当事者の事業所の変更から契約の解除、不可抗力事由が発生したことによる変更などさまざまな事柄があります。これらに共通することは、これらの出来事が発生した場合、相手方にその出来事についての通知を行う必要があることです。これを規定するのが、「Notice(通知)」条項です。

2 「Notice(通知条項)」

各契約では、通常、特に、「Notice(通知条項)」が設けられていない場合でも、通知を行うことを求められる事柄が規定されています。「Notice(通知条項)」には、以下に記載するようにさまざまな内容が盛り込まれていますが、基本的な部分についての例文を作ってみました。

「All notice and other communications in connection with this agreement must be in writing.」(本契約に関連するすべての通知およびその他の伝達は、書面によるものでなければならない。)

通知が求められる内容は、上記の他に、契約ごとに定められた事柄があり、また、通知の相手方への*送達時期(通知発送後、xx日(暦日(calendar day)または営業日(business day))または時期を指定せず、可能な限り速やかに等)や通知を行う方法(郵便、その他の文書、メール、ファックス、手交等)、通知先(住所、部署、担当者等)、その他が定められています。(*送達時期の指定がない場合もあります。この場合、一般には、準拠法によります。)

特に、通知がメール、ファックス等で行われた場合、「通知を受け取った、受け取っていない」から生じる紛争を回避する目的で、例えば「provided that a confirming copy of such facsimile or e-mail shall be sent by air mail」(当該ファックスまたはE-メールの確認用のコピーが航空郵便で送付されることを条件とする。)等の一文を設けることもあります。

その他、「Notice shall be deemed to have been received if …….」(…….の場合、通知は受領されたと見なされる。)のように、通知を行った時点で、相手方に送達したとみなすように規定する場合も見受けられます。

英文契約書では、書面重視の考え方、習慣等から、一般に、その内容は考え得るすべての事項を可能な限り取り決める傾向があります。これらは、上記の口頭排除の原則(Parol evidence rule)、最終性条項(1)または完全なる合意といわれる(Entire Agreement)に代表される概念です。

おおざっぱに言えば、当事者間の文書、口頭における当事者間の了解事項についての最終的な合意を記載した文書が、契約書となります。

これは、当事者間で文書により合意した事柄以外は、契約内容として認めないという姿勢を確認するため、英文契約書の条項「一般条項」の中にも、あえて口頭排除の原則や、最終性条項を補完する意味で、いわゆる「修正条項」なるものを設定することが一般的に行われています。

その目的は、契約締結後における、文書によりなされる以外の当事者間の口頭による契約内容のあらゆる修正を排除するところにあります。

記載方法は、いろいろありますが、基本的に、「契約のいかなる変更も、両当事者が署名した書面にもの以外は、無効である(有効ではない)」旨の一文が記載されます。

例えば、「No amendment or modification of this Agreement shall be effective unless in writing and signed by both parties.」(本契約のいかなる修正もしくは変更も、両当事者が署名した文書による以外無効である)のような例文を作ることができます。最低この内容で問題ないと思われますが、実際には、上記のような文章にいろいろな要素が(多くは、多分起草者の考えにより)加えられます。例えば、上記にいくつかの他の具体例を加えたいとか、詳細に規定したい場合、「No amendment or modification of this Agreement and “no waiver of any provision hereof” shall be effective unless in writing and signed by both parties.」この例では、「権利放棄」を加えてみました。また、「両当事者が署名した書面」について、署名人を指定したい場合は、「No amendment or modification of this Agreement shall be effective unless in writing and signed by“ authorized representatives of” both parties.」のように「authorized representatives of」(授権された代表者)を入れると、それ以外に者が署名しても、その変更は、無効となります。

いずれにしても、契約内容を変更したら、内容を問わず書面を作成し、当事者間で確認することです。

例文-最終性条項(1)

「This Agreement constitutes the entire agreement, and supersedes, whether orally or in writing, all prior agreements and understandings of the parties hereto with respect to the subject matter hereof, and cannot be amended or otherwise modified except in writing executed by the parties hereto.          (本契約は、最終的合意を構成し、口頭・書面によるものを問わず、本契約の主題に係わる本契約の両当事者間のすべての以前の合意と了解に優先し、また、本契約の両当事者が署名・捺印した書面による場合を除き、修正、または他の方法により変更することはできない。)

以上、「Entire Agreement」(最終性条項)、Notice(通知条項)」について、知っていると便利という点に絞って簡単に見てました。

参考図書:

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

法律英単語ハンドブック(自由国民社)