英文契約書における文頭の否定
英文契約書を見ると、定義条項が設定されており、重要な語句に一貫した意味を与えています。また定義条項に加え、さらに各条項に、文言が定義されている場合もあります。定義条項がない場合でも、各条項に、文言が定義されていることが多くあります。 一見すると、あいまいさが排除されているようにも見えます。ただし、実際に英文契約書に接してみると、たしかに重要な語句は、定義されていますが、慣れていないと、「混乱」するような書き方の文章があります。慣れてしまえば、どう言うものでもありませんが、最初のうちは人により戸惑うことがあります。その意味からすると、いわゆる「何となくあいまいさ」が感じられる部分かもしれません。契約書翻訳の視点から見てみます。
「In no event shall」で始まる文例
今回、1つの例として「In no event shall」で始まる文章(文章の冒頭におかれている場合)を例にあげてみます。 通常、「In no event shall」から始まる文章は、「In no event shall」に導かれるその後の文章部分を、「~でない」とします。
例文としては、以下の様なものがあります。
In no event shall someone be liable for …………………………… (いかなる場合も(人は)……………………………に関して責めを負わない。)
「In no event shall」の中に「No」と言う文言があるため、「In no event shall」に導かれるその後の文章の内容は否定文になります。(In no event willの形もあります)
In no event shall ABC Corporation be liable for any damages caused by or in relation to this Service. (いかなる場合も、ABC Corporationは、「サービス」に起因する、または関連する損害賠償に対して責任を負わない。)
この例では、一読して意味がはっきりしていますが、「In no event shall」に導かれる長文では、熟読しないと、意味を取り違えるような書き方がされている文章もあります。
以下の例文を作成してみました
実務で目にする内容と比べると相当簡単なものです。
「In no event shall」:(A) ABC Corporation be liable for any damages caused by or in relation to this Agreement, (B) ABC Corporation’s liability in respect of any and all claims arising from or related to this Agreement exceed 1,000,000 Yen; and (C) ABC Corporation’s liability for any claim extend beyond the period hereof.
いかなる場合も、(A)ABC Corporationは、本契約に起因する、または関連する損害賠償に対して責任を負わない。(B)ABC Corporationは、本契約に起因する、または関連する申し立てに関して、百万円を超える責任を負わない、(C)ABC Corporationの責任は、本契約の期間を超えない。
すなわち、文頭の文言「In no event shall」は、文章全体を否定するため、以下のように「肯定文」で書かれている文章 (A)、(B)、(C)の部分は、内容的に「否定文」になります。
- (A)は、文面上では、責任を負う(be liable for):否定されているから賠償責任を負わない。
- (B)は、文面では、責任は百万円を超える(exceed 1,000,000 Yen):否定されているから百万円を超えない。
- (C)は、文面では、責任は、契約期間後も延長( extend beyond the period hereof):否定されているから延長されない。
上記のような書き方をしなくても、自分で起草する場合、例えば、Aの文章の場合、
「ABC Corporation shall not be liable for any damages caused by or in relation to this Agreement.」 とすれば、わかりやすく、簡単です。(複数の項目を列挙するには、「In no event shall」:を使うのが便利かもしれませんが。)
参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)