英文契約書の単語・用語 日本語の漢字2語からなる英語表現(その2)諾否について

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契約書翻訳、例えば和文英訳の場合、日本語の「有無」、「可否」、「諾否」、「良否」、「成否」、「真偽」等の漢字2語からなる言葉が使われることがあります。これらは日常の文章や法律文でも使われています。漢字2語で表すとわずか2語からなる言葉ですが、英文に置き換える場合、同じ言葉でも、その内容・文脈等により意味合いの異なる場合もあり、その意味を体現した訳語を使う必要があります。もちろん英文和訳の場合でも翻訳に際してこれらの言葉を使用することがあります。
今回は、「諾否」についてです。いずれもすべての類型を網羅することはできないので作成した例文(法律文を除く)でいくつかのパターンを見てみます。例文にある訳語はすべて暫定訳です(法律文をのぞく)。

「諾否」について
「諾否」の主な意味は、「引き受けることと断ること」、「承諾するかしないか」になります。
和英辞典を見ると、「諾否」に対応する主な訳語としては「yes or no」または「~ whether someone accept ~ or not」があります。日英、英日の翻訳に際してこれらの言葉をそのまま使用することもありますが、和文英訳の場合、文脈により「諾否」に対応するとして言葉として例示した上記の英語に単純に置き換えることできない場合があります。
1つの例ですが「諾否」が「承諾するかしないか」とい意味で使われた場合、「承諾」は、類語も含めると「承諾≒受け入れる、聞き入れる、認める、承認する、受諾する」等の意味があります。そのためか上記の訳語に加え和英辞典でも「Consent or refusal」、「Acceptance or disapproval」、「Accepting or refusing」、「Accepting or not accepting」、「Acceptance or non-acceptance」等の訳語が記載されています。
特に「諾否」については翻訳に際して和文英訳・英文和訳を問わず文脈により対応する訳語が変わってきます。文脈に応じて的確な訳語を選択することが求められます。

1. 「諾否」に対応する英文をそのまま使用する場合の例:

例(1)The board of directors has not decided yet whether they accept the proposal or not.
提案を受けいれるか否か⇒提案の受け入れについての諾否

例(2)It decides (on) whether an issuance of the certificate is consented or refused
証明書の発行を承認するか拒否するか⇒証明書の発行の諾否

例(3)~ whether someone accept or not「諾否をお知らせください」Please let us know whether you accept (it) or not.
If a merchant receives an offer to contract that is in its line of business from a person with which it has regular dealings, the merchant must issue notice of its acceptance or refusal of the offer to contract without delay.(商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。)(商法

2.  「諾否」に対応する英文を使用しない場合の例

例(1)…, it is required to furnish a response either consenting to or declining the request after checking whether it complies with technical standards, etc.(~の場合、技術基準に適合するか等を確認の上、要請に対する諾否に関する回答を行うことが求められる。)

例 (2)「この件に関する彼の家族の諾否が判明するのが遅れる場合」
if an answer from his family regarding this matter is delayed…

この場合、原文では「彼の家族の諾否」ということでしたが、何らかの提案・お願いに対する彼の家族の返答(了解・承諾または解答)のことを言っていると解釈し、状況に応じて「諾否」の訳を使うのではなく、家族からの承諾・了解の意味で「answer from …」としました。

契約書の簡単な例:
Party A has complete freedom to accept or reject sales of the Products under this Agreement even after the formation hereof. (当事者Aは、本契約の成立後であっても、本契約に基づく製品の販売の諾否についての(製品の販売を承諾または拒否する)完全な自由を有する。)

The Licensor shall examine the Licensees’ business plan, status of capital and financial situation every year after conclusion of this Agreement, seeking for shareholders’ approval or disapproval of this Agreement renewal. (ライセンサーは、本契約締結後毎年、ライセンシーの事業計画、資本の状況、財務状況を審査し、本契約の更新について株主の諾否(承認または不承認)を求めるものとする。)

前回、「可否」についてとりあげましたが、「可否」対応する英文のフレーズとして、「諾否」同様、「~ whether someone accept ~ or not」が使われることがあります。

I have not decided whether or not I can accept his offer yet. (彼の申し出を受け入れられるかどうかはまだ決めていません。⇒彼の申し出の受け入れの可否ついてはまだ決めていない。;彼の申し出を承諾するか否かはまだ決めていない。)

日本語の「可否」、「諾否」とも似たような意味やニュアンス、時として同じ意味で使われることがあります。日・英、英・日本翻訳とも文脈に応じた言葉の使用が必要です。

「可否」の日本語の意味については、前回のブログ「日本語の漢字2語からなる英語表現(その1)「有無」、「可否」」に簡単な記載があります。

「可否につき協議を行う」⇒When either party proposes to change the specifications based on the preceding paragraph, the parties shall consult with each another for the change and right and wrong of such change without delay.

実際のところ契約書に限らずこの「諾否」という言葉はあまり使われることはないようですが、それでもごくたまに目にすることもあり、取り上げた次第です。
本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ラダムハウス英和辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
日本法令外国語訳データベースシステム

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