今回は、英文契約書で使われている「bona fide」について見てみます。
「bona fide」の意味
英文契約書には、その元となる英米法がローマ法を色濃く継受している関係から、ラテン語やフランス語などからの用語が使用されていることがあります。前回、in lieu of「~の代わりに」、mutatis mutandis「準用する」、pro rata「比例して、案分して、割合に応じて」について述べましたが、引き続き、いくつかの例を契約書翻訳の観点から見てみたいと思います。今回は、「bona fide」の意味についてみてみます。
「bona fide(善意の)」(多く使われる意味(訳し方)では)契約書の場合は、多くは、例えば、bona fide third party「善意の第三者」、bona fide user 「善意の使用者」、bona fide employee「善意の従業員」等の意味に使われます(このほかにも数多くあります)。
「provided, however, that neither the Parent, Surviving Corporation nor the Agent shall have received notice that such Certificate has been acquired by a bona fide purchaser.」
(但し、親会社、存続会社、または代理人は、当該株券が善意の買主によって取得されている旨の通知を受け取っていないことを条件とする。)
このbona fideという言葉は、辞書には、「善意の」というより、むしろ「誠実な、誠意の、真実の、真正の」(形容詞)「誠実に、真実に」(副詞)等として紹介されており、このような意味で使われる場合も多くあります。
「No bona fide pledgee or other holder of issued shares as collateral security shall be personally liable as a shareholder.」
(担保株式として発行された株式の正式な質権者またはその他の所持人が、株主として個人的責任を負うことはない。)などと使われることもあります。
「If the Parties are unable to resolve their dispute through bona fide negotiations, all disputes, controversies or claims arising out of this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the Rules of the Arbitration Institute of the Chamber of Commerce.」
(両当事者が、誠実な交渉による係争の解決をなし得ない場合、本契約から生ずるすべての係争、論争もしくは申し立ては、商業会議所仲裁裁判所の規則に基づく仲裁により最終的に解決される。)
少し面白いと思った例は、bona fide leave「正式な休暇」と訳す必要がある例がありました。
なを、「善意の」という意味ですが、日本の法律の英訳を見ると、
「理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」(民法)
No limitation on a director’s authority may be asserted against a third party without knowledge.
「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」(民法)
The nullity of the manifestation of intention pursuant to the provision of the preceding paragraph may not be asserted against a third party without knowledge.
前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。(会社法)
No limitation on the authority under the preceding paragraph may be asserted against a third party without knowledge of such limitation.となり、多くの場合において「善意」の意味を、without knowledge「知らなかった」を使って表す場合もあります。
そのほか、「善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。」では、A possessor in good faith shall acquire fruits derived from Thing in his/her possession.のように「善意」=「good faith」が使われている場合もあります。
なを、調べてみると、「善意取得」をBona Fide Acquisition(地球温暖化対策の推進に関する法律 )等もあり、Bona Fideが使われています。
ついでに、「善意」の反対の「悪意」について、日本の法律の英訳を見ると
「ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。」
provided, however, that the performance of the applicable obligation shall be void if the obligor has knowledge or is grossly negligent.
この場合、「悪意」をknowledge 「知っている」を使って表しています。
「法律用語辞典」を見ると、「善意」とは、「ある事実を知らないことで、悪意に対する」とあり、「日常用語とは異なる」と記載されています。なを、「ある事実を疑わしいと思っている場合も、占有の場合を除き、通常は善意にあたる」旨の記載があります。
そのため、「善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす」。では、
「If a possessor in good faith is defeated in an action on the title, he/she shall be deemed to be a possessor in bad faith as from the time when such action was brought.」
この場合は、「悪意」=bad faith (不誠実)とされ、「善意」=good faith(誠実)が使用されています。
同じ「善意」と「悪意」でも、訳出時の使い分け(どれを使うか)を行うには、文章(この場合は法文)の意味正確に把握する必要があり、このあたりが翻訳に際してのむずかしさ(日本語から英語、英語から日本語への翻訳を問わず)がある思うところです。
bona fideに関してざっと見るだけで終わってしまいました。詳しくお知りになりたい場合は、専門書をご覧になるのがよろしいかと思います。bona fide以外にも、いくつか見てみたいラテン語やフランス語などに由来する用語がありますが、次の機会にしたいと思います。
参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)