契約書翻訳

英文契約書の一般条項(その5)不可抗力条項

投稿日 ブログTags:


契約書翻訳の視点から見た英文契約書の一般条項、いわゆる「General Terms」についての前回の続きです。今回は、「不可抗力条項」についてです。Force Majeure(不可抗力)については、これまでも何回かとりあげてきました。「不可抗力条項」は、一般条項の一部として記載される場合もあれば、不可抗力について独立した条項として記載される場合もあります。

今回は、これまでのまとめの意味も含めて作成した例文を通して見てみます。

不可抗力について簡単にまとめてみます。

1. 不可抗力(Force Majeure)とは

外部から発生した事故で、取引上・社会通念上で普通に求められる注意・予防措置を講じても防止しえないもの。

その事故に対する予期の有無にかかわらず、自然力・人為的なものかを問わない。

不可抗力があると、債務不履行・不法行為責任を免れると解される。

義務の免除、軽減を受ける場合もある。

具体的には、当事者に責任のない(当事者の管理に帰せられない、当事者の支配の範囲を超えた)理由-戦争、暴動、ストライキ等に代表される「人的災害」と政府機関の命令等、および地震、台風、洪水、水害、竜巻、疫病等の「自然災害」など、当事者に責任のない(当事者の管理に帰せられない、当事者の支配の範囲を超えた)事象により、契約の履行ができなくなった場合です。広範囲で不可抗力の内容を列挙するのが慣例ですが、「不可抗力」とは認められない範囲を別途規定する場合もあります。

Force Majeure means any event caused by occurrences beyond a party’s reasonable control, including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, war, terrorism, labor dispute, pandemic, system malfunction, governmental regulations, policies or actions enacted or taken subsequent to execution of this Agreement, or any labor, telecommunications or other utility shortage, outage or curtailment. (不可抗力とは、天災、火災もしくは洪水、地震、戦争、テロ、労働争議、流行病、システムの機能不全、本契約の締結後に制定された、もしくは講じられた政府の規制、方針もしくは法的措置、または労働、通信、もしくは他のガス電気水道等の公共事業の供給不足、供給停止もしくは供給の削減を含み、これらに限定されない、当事者の合理的な管理能力を超えて発生した事象を意味する。)

この例では、不可抗力事由を列挙しながら、「including, but not limited to,」の構文を列挙した事由の前に置いて、列挙した事由に限定されないことを明示的に示しています。

上記のように具体例を列挙しますが、その契約において不可抗力により生じた「不履行」、「履行遅延」、および「不可抗力の期間」等についての対応は、個別の契約により異なります。また個々の契約においては、上記の「不可抗力」事由の他に、その契約固有の「不可抗力」事由、例えば、工場が被った災害(爆発、火災等)、交通途絶、港湾封鎖、政治的・社会的混乱、国家の分離・独立、これらが金融機関の及ぼす影響等、その他諸々の事由をその契約に応じて記載します。また、不可抗力の発生に関する第三者機関の証明の提出義務などが追加されることがあります。

2.  不可抗力(Force Majeure)の期間と契約解除

「不可抗力の期間」が不可抗力条項にあらかじめ規定して期間を超えて継続した場合の「契約解除」を行う場合は、その旨の規定を設けることが必要とされます。(不可抗力に起因する契約解除に関する規定を設けていない英文契約書も多くあります。)

If the Force Majeure condition continues for 90 days or more, either party may terminate this agreement upon written notice to the other party. (不可抗力の状態が90日以上継続する場合、いずれの当事者も相手方に対する書面の通知により、本契約を解除することができる。)

3.  不可抗力(Force Majeure)における免責

一般には、「不可抗力」の事態が発生しても、支払に関する債務は、免責されないことになっているようですが、実際に「不可抗力」の事態が発生した場合は、(場合により債務の履行が一定期間猶予されても)支払がなされないこともあり、また、国ごとの債権に関する法律の違いなどから、当然、債務の不履行、履行遅延に関する紛争が生じることも多いとされます。また、支払に関する債務の免責以外にも、「不可抗力」の事態が発生した際の契約の履行義務に関する責任の範囲、その他を詳細に規定する場合もあります。(このあたりについては、専門書をご覧ください。)

Neither Party hereto shall be liable to the other party for failure to perform its obligations hereunder due to Force Majeure.(本契約のいずれの当事者も、不可抗力により、本契約に基づくその義務の不履行に対して、相手方に責任を負わせることはないものとする。)

Neither party is responsible for failure to fulfill any non-monetary obligations due to events beyond his or her reasonable control(いずれの当事者も、その合理的管理の範囲を超えた事由に起因する非金銭的債務不履行に対する責任を負わない。)

Any force majeure delay or non-performance as defined herein shall be considered an excusable delay or non-performance, and neither Party shall be entitled to any additional compensation as a result thereof.(本契約に記載の不可効力による遅延もしくは不履行は、正当な(許される)遅延もしくは不履行とみなされ、いずれの当事者も、その結果としての追加的な補償の権利を与えられることはない)

「delay」は、債務の履行が遅れる=債務不履行=お金の支払にかかわるという意味で、契約において大きなインパクトを持つ用語です。

英文契約書に不可抗力条項がない場合は、当事者間の話し合による解決のほか、ウィーン売買条約(日本では2009年8月発効)の適用が可能性としてあります(同条約の「損害賠償」、「免責」および「解除の効果」等-同条約の規定では、契約の不履行が不可抗力によることが証明できれば免責を受けられます。)。ただし、相手方の国が同条約に未加入であったり、契約に同条約を適用していない場合や、別途準拠法を定めている場合は、同条約は適用されません。

また、ある事象が当事者の管理(または支配)を範囲を超えた事由による場合でも、それらを不可抗力とはみなさない旨をあらかじめ定義する場合もあります。

Neither economic downturn nor significant decline in demand for the Products manufactured by Party A shall be Force Majeure. (いかなる経済の悪化および当事者Aの製品の需要の深刻な低下も不可抗力としない。)

Raw material or labor shortages shall not be considered as force majeure events. (原材料または労働力不足は、不可抗力事由としない。)

ちなみに、日本の民法では、損害賠償について「債務者は不可抗力をもって抗弁することができない。」(第419条第3項)と定められています。

(3) The obligor may not raise the defense of force majeure with respect to the compensation for loss or damage referred to in paragraph (1).(3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。)

Article 274 A farming right holder may not demand release from or reduction in the rent even if there is a loss of profits due to force majeure. (第二百七十四条 永小作人は、不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除又は減額を請求することができない。)(民法)(

このブログの目的は、1つの単語に様々に意味を持つ傾向がある英単語が契約書・法律文書で使われる場合、その単語の意味と使われ方を手っ取り早く理解し、英文契約書を読んだり、書いたり、するための一助になればとの考えからです。そのため、不可抗力における免責等を含め、法律的な意味や解釈、その背景については、専門書を参照してください。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)

デジタル大辞泉(小学館)

法律英単語(自由国民社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

Japanese Law Translation他

One Response to “英文契約書の一般条項(その5)不可抗力条項”