契約書翻訳

英文契約書における文頭の否定(まとめ)

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これまで何回か、「英文契約書における文頭の否定」というタイトルのブログを掲載してきました。今回は、それらの要点を契約書翻訳の視点から改めてまとめてみました。

1. 文頭の否定とは

以前にも触れましたが、英文契約書の中には普通の文書にはあまり見られない文頭に例えばNoやNonなど、否定を意味する接頭語が始まる言葉が多々見られます。例えば、「In no event shall~」に導かれるその後の文章部分は、[~でない]の意味になります。例:In no event shall someone be liable for ……………(いかなる場合も(人は)…………に関して責めを負わない。)

「In no event shall」のほかにも、文章の文頭に否定を意味する語句が置かれると、その後に続く文章は、通常肯定文もスタイルとなりますが、文章全体としては、否定文になります。

このスタイルは英文契約書に限らず、英文において一般的に見られることです。今回も契約書翻訳の観点から見てゆきます。

口語英語でも、「No xxx, No life」と言うように、XXXがないと生きていけないなどの表現もあります。絶対、何か欲しいとき、何かしてほしいときなどに使用します。

例えば、音楽好きなら、「No music, No life.」 お菓子が好きなら、「No cookies, No life.」、「No chocolates, No life.」などとなります。 英文契約書に目を移してみるとこの表現のスタイル(文章(または言葉)の先頭に否定を意味する語句を使う)は、契約上、例えば「あれをしてはいけない」、「これをしてはいけない」との意味で、契約の当事者、相手方、関係者に対してなんらかの規制をかける場合、良く使われます。

2. 文頭の否定と普通の否定文

NonやNoで始まるもの 通常の否定文にした場合
In no event shall ABC Corporation be liable for any damages caused by or in relation to this Service. In any events, ABC Corporation shall be liable for any damages caused by or in relation to this Service.
(いかなる場合も、ABC Corporationは、「サービス」に起因する、または関連する損害賠償に対して責任を負わない。)
Neither we nor you will be prevented from disclosing the confidential information; Both we and you will not be prevented from disclosing the confidential information;
(当社と貴社のいずれも、以下の機密情報の開示を妨げられない。)
No party shall be responsible for ~ Any party shall not be responsible for ~
(いかなる当事者も~に責任を負わない)
None of the parties may assign or transfer any of its or their rights or obligations under this Agreement. Any of both parties may not assign or transfer any of its or their rights or obligations under this Agreement.
(いずれの当事者も、本契約に基づく当事者、もしくは各当事者の権利と義務を、譲渡または移転することはできない。)

例えば、チケットの変更ができない場合「チケットの変更はできない「We can make no changes~」の様に、言い切ってしまうといささか相手に対して強い調子になり、これを「No changes can be made to the tickets.」とすると一見事務的ですが、「チケットの変更はできないことになっています」事実関係を述べているだけで、「決まりですので、ご了承の程、お願いします。」というニュアンスがあります

  1. 「Non」が付いた用語の例(ごく一部の例です)
例文 訳語 使用例 訳語
Non-affiliated 系列外の、非加入の nonaffiliated company

cf. affiliated company

Associated company

Subsidiary company

系列外の会社

関係会社/系列会社

関連会社

子会社

non-approved 非承認の、非認定の、未承認の Non-approved use of the Mark マークの認可適用外の使用
non-audit 監査外の non-audit services 監査外業務
Non-disclosure 非開示の Non-disclosure of Confidential Information 機密情報の非開示
Non-commercial 非商業的な only use the Software for your private, non-commercial use. 貴方個人の、非商業的な使用のみのために、本ソフトウェアを使用する
Non-confidential 非機密の It was in its possession on a non-confidential basis before receipt from the other 相手方から受領する前に、非機密として所有していたもの
Non-Conforming 不適格な、

準拠していない

Non-Conforming Products 不適格な製品/不良品
Non-disclosure 非開示の Mutual Non-Disclosure Agreement

Divulgation of the Non-Disclosure Agreement

相互非開示契約

 

非開示契約の漏洩

Non-life insurance 非生命保険/傷害保険/損害保険 Overview of the Non-Life Insurance Business in xxx Xxxにおける傷害保険業界の概説
Non-returnable 返却できない Products are non-returnable except as provided in this Section 9 本製品は、本第9条に規定される場合を除き、返却することができない。
Non-refundable 返金できない

この場合は金銭のみに関する言及

Except as otherwise provided in this Article, all fees are non-refundable. 本条においてその他特段の定めのある場合を除き、すべての料金は、返金できないものとする。
Non-refundable 返金できない

この場合は金銭のみに関する言及

Except as otherwise provided in this Article, all fees are non-refundable. 本条においてその他特段の定めのある場合を除き、すべての料金は、返金できないものとする。

この他にも、Nonbinding(拘束力のない) Noncommittal(言質を与えない)

Noncompliance((法律、規則などに)準拠しない)、不履行)

Nonconfidence(不信任)Nonconformance(従わないこと、順応(適合)しないこと)Nonconforming(従わない、順奉しない)、Non-Use-Obligations(不使用の義務)

このほかにも、多々あります。

4.その他「Non~以外の例」: 「Nothing~」、「None of ~」、「Neither~nor」、「Neither~nor」、「No someone shall~」、「In no case ~」

Nothing~
Nothing in this Agreement shall be construed as creating ……….(本契約のいかなる内容も、……….を生じると解釈されることはない。)

Nothing in this Agreement shall require ……….(本契約のいかなる内容も、……….を求めないものとする。)

「None of ~
None of the parties may assign or transfer any of its or their rights or obligations under this Agreement.(いずれの当事者も、本契約に基づく当事者、もしくは各当事者の権利と義務を、譲渡または移転することはできない。)
Neither~nor
Neither we nor you will be prevented from disclosing confidential information; (当社と貴社のいずれも、以下の機密情報の開示を妨げられない。)
No someone shall~
No party shall be responsible for ~(いかなる当事者も~に責任を負わない)
In no case ~
In no case may this agreement be transferred by the Company

(会社は、(決して)本契約を譲渡してはならない。)

文頭の否定に関していくつかの類型を見てきましたが、前回も書きましたが、自分で否定内容の文章を起草する場合、なれないうちは、文頭に否定の形式ではなく、いわゆる「普通の否定文」を使うのが良いかと思われます。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

Oxford Dictionary of English他

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