前回、「~先」についての英語表現をとりあげてみましたが、今回は、「~先」と対をなす「~元」の英語表現とこれも良く使われる「~主」の英語表現について見てみます。契約書の翻訳などでも、日本語の契約書を英文契約書に訳すとき、よく使われ、時として頭を悩ませることある言葉です。今回、例文はありません。
1. 「~元」の英語表現について
(a)「元」の日本語の意味
まずは、「元」の日本語の意味から見てみます。「~元」という言葉は、「~先」と同様に日常的に使われている言葉です。また、「~先」に比べると「~元」に対応する英単語は、辞書にもある程度記載されていますが、ある単語の訳語を知りたくて辞書を調べてその単語についての記載がない経験もそれなりにあります。また単語によっては定訳がないものもあります。
日本語の「~元」の「元」の部分にあたる意味についは、国語辞典を見ると「元」には多くの意味がありますが、主な意味としては、「ものごとのもと」、「根本」、「はじめ」等があります。
元(読み)げん
精選版 日本国語大辞典「元」の解説では、
名詞
物事の根本、はじめ。もと。
デジタル大辞泉「元」の解説
・物事のもと。根本。「元気・元素/還元・根元・復元」
・はじめ。「元始」
その他の意味については割愛しますが、元の意味を図示すると以下の様になります。
「元」➡➡➡➡➡➡➡➡
「元」があって、ある方向にそれが向かっている表現になります。
英語にすると「originate」の様に、(ここから)始まる。(ここに)源を発する。(ここから)起きる。の意になります。日本語の「要求元」の英語「requestorを例にとると、ここから要求が発生した。ここから要求が出された。のようになります。つまり、要求が発生した「元」となります。
例をあげてみます。 「請求元」とう言葉があります。英語は、「biller」になります。これはbill(こ場合の意味は「請求書」)が発生した元で、請求元=billerとなります。
日本語の「元」は、英語では「originate」です。名詞は、「origin」、形容詞では、「original」、副詞では「originally」(〔初めから〕from the outset [beginning])共々、「元々」に当たる言葉です。
「元」➡➡➡➡➡➡➡➡
(b)「元」に対応する英語の意味
すでに述べたように、「元」の英語の意味は、基本的に「originate:源を発する、起こる、始まる」です。名詞は、「origin」、形容詞は、「original」、副詞は「originally」(〔初めから〕from the outset [beginning])共々、「元々」に当たる言葉です。
日本語の「~元」に対応する英語の一部には、例えば以下のものがあります。
要求元:requestor
出火元:fire breakout source
製造元:maker, manufacture
制作元:maker
仲介元:mediator
出版元(出版会社):publishing company、publisher、publishing house、publishing firm、publisher、newspaper publisher
供給元:supply source
依頼元:client、requestor
版元:the publisher of a book)
映画の配給元:a distributor of movies
製造元:the manufacturer; the maker
2.「~主」の英語表現
日本語の「~元」と同じような形式の表現に「~主」があります。これらの中には 「~元」という表現ではありませんが、「~元」の表現に置き換えられる言葉または組み合わせもあります。例えば、「依頼主= client、requestor」は、上記の「依頼元=client、requestor」のようにと置き換えられます。ただし、上記の図のような流れの意味を持つものもありますが、例えば、「貸主」に対する「借主」のような場合もあります。
日本語の「~主」に対応する英語の一部は、例えば以下のものがあります。
送り主:sender
荷主:consigner, shipper
持ち主:owner
売主:seller
買主:buyer, purchaser
家主:landlord、owner of house
店主:shopkeeper、storekeeper, owner of shop
*買主:landlord、creditor、 lessor、
*借主:borrower, debitor、debtor, leaseholder, lessee、renter、tenant
*借りる対象により使用する言葉は違います。
前回とりあげた日本語の「~先」、今回の「~元」、「~主」は、ある動作を行う主体の後に「先」、「元」、「主」という言葉を足して、1つの意味を作り上げるという便利な言葉です。
国語学者ではないので、確たる証明があるわけではありませんが、私見として、これらの言葉は多くの場合日本語の語用、使い回しからきていると思われます。これらの日本語を英語に訳す場合、前回取り上げた日本語の「~先」の英語表現と同じように、「~元」、「~主」に本来対応する言葉に置き換えたり、場合により、そのことを説明する新たな言葉を作ったりする必要もあります。
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参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
精選版 日本国語大辞典(小学館)
デジタル大辞泉小学館)