1. 英文契約書の独特の用語
英文契約書を読むと、以下の例のような、通常、あまりみかけない用語や構文が眼に入ってきます。これらを契約書翻訳の観点から概説します。
“witnesseth”, “whereas”, “whereof”, “thereof”, “hereof”, “hereby”, “indemnify and hold harmless”, “without prejudice to”, “represent and warrant”, “subject to”, “implied warranty of fitness”, “as is basis”, “pari passu”, “execution of this Agreement”, “attorney in act”, “covenants and agrees”, “escrow”, “take or pay”, “most favored customer”, “con-sequential damages”, “in lieu of”, “mutatis mutandis”。
いわゆる、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)と称されるもので、これらはその一部です。これが使用されるようになった経緯は省きますが、これらの用語は、英文契約書(法律文書)特有の用語・言い回しの一部となり、これが英文契約書のわかりにくさを生じる原因の1つになっているとも考えられます。これは、契約社会とはいえ、時として英米人にとっても、わかりにくさを生じることがあるようです。
余談ですが、実務で英米人と共に英文契約書のドラフティングを行っていた頃、作成した、英文契約書の一文を巡って、その解釈について、米国人弁護士も交えて様々な意見が飛び交うことがよくありました。
2. わかりにくいとされる英文契約書
本来、契約書や法律文書は、誰でもその内容を理解できるもの(明確に解釈可能なもの)として作られることが理想であり、そうあるべきです。ただし、現実には、長年の習慣やその他の理由で、相変わらず、英文契約書の多くは、「わかりやすさ」とほど遠い内容が多く見受けられます。米国でも、1970年代に一般人を保護する目的で「契約書をわかりやすく記載する」ことが提唱され、裁判でも支持され、また、一部で立法化もされたようですが、効果のほどは、今一つというのが実感です。特に、金銭面のことを記載した部分は、意図的にわかりにくくしてあるのかと、勘ぐりたくなる英文契約書に内容に遭遇することがあります。
わかりにくいとされる英文契約書ですが、そのわかりにくさの一部を形成するリーガルジャーゴン(Legal Jargon)の意味をとらえることで、英文契約書のわかりにくさの一部がある程度解消されるかもしれません。
3. わかりやすい英語への置き換え
多くの場合、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)は、わかりやすい英語(Plain English)に置き換えることが可能です。例えば、「hereto」、「hereof」、「herein」、「hereby」は、辞書等では、一般に「これに・この文書に」、「これの・これに関して」、「ここに・この中に」、「これによって」等(いずれも抽象的ですが)と記載されますが、これらは、下記の例のように、置き換えられます。
「 This Agreement constitutes the entire agreement, and supersedes all prior agreements and understandings (both written and oral) of the parties hereto with respect to the subject matter hereof, and cannot be amended or otherwise modified except in writing executed by the parties hereto.」
上記の場合の「hereto」、「hereof」、は、いずれも「the parties hereto」=「the parties to this Agreement (本契約の当事者)」および「the subject matter hereof」 = 「the subject matter of this Agreement.(本契約の主題)」
「This Agreement replaces and supersedes all prior agreements, documents, writings, verbal understandings and rights between the Parties in respect of the Services, and there are no oral or written understandings, representations or commitments of any kind, express or implied, which are not expressly set forth herein.」
上記の場合の「herein」は、「set forth herein」=「set forth in this Agreement(本契約に規定する)」
NOW, THEREFORE, in consideration of the promises, and of the mutual covenants hereinafter set forth, and intending to be legally bound hereby, ………………..
上記の場合の「to be legally bound hereby」は、「to be legally bound by this Agreement(本契約により法的に拘束される)」
4. 文脈からの判断が求められる
なを、いずれの場合も、前後の文脈から判断する必要があります。(上記は、サンプルのため、前後の文章が存在するという前提に立っています。また、これらの例は、多くの場合、慣用的に用いられます。)
「Legal Jargon」については、以前と比べると最近は、分かりやすく説明された解説書も出版されています。体系的に把握されたい方は、解説書をご覧ください。
参考図書:
法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary、英文契約書の書き方 日経文庫、 ビジネス法律英語辞典 日経文庫