英文契約書で良く見かける用語と単語に関して、前回と同様に使役動詞「~させる」の使い方と使い分けについてです。今回は、英文契約書の用語と単語 「に~させる」の表現 (その1)-cause、imposeを使った場合として、例文を通して、英文契約書での用例を見てみました。今回は、「に~させる」の表現(その2)として、compel、enforce、makeその他を使った表現を契約書翻訳の観点から見てみます。多くの場合、使役動詞を契約書で使用するケースは、「契約当事者も契約内容を守るが、契約当事者の関係者にもその契約内容を守らせる」ということを約するために使用されます。
1. Compel
「(人)に~させる」の意味では、compelはどちらかというと、「無理に~させる」、「強いる」、「強いて~させる」の意味になります。
具体的には、「compel someone to do」の形で、例えば、The Government may compel a person who enters this country to conform to the rules applicable to such person.(政府は、この国への入国者に、入国者に適用される規則に従うように強制することができます。)
また、「compel someone to 名詞」の形で、「強いて〔ある行動を〕とらせる」の意味で使われます。例えば、Buyer shall have the right to compel Supplier to specific performance of the Order.(バイヤーは、サプライヤーによる注文の特定の履行を強制する権利を有するものとします。)なを、本題から外れますが、以下のように書くこともあります。Buyer shall have the right to compel specific performance of the Order by Supplier.
2. Enforce
主たる意味としては、実施する、施行する、強いる、強要する、強める、強調する、強く主張する等の意味があります。
以下に例文を作成してみました。
Each party has the right to enforce this Agreement against the other party by temporary restraining order, injunction, or other equitable relief, without proving actual damages.
「各当事者は、実際の損害賠償を証明することなく、保全命令、差し止め、またはその他の衡平法上の救済により、相手方に対して本契約を執行する(契約を行わせる)権利を有する。」
なを、enforceは、「(人に)に~させる」の意味よりも、以下のように「施行する」、「実施する」の意味で使用される場合が多く見受けられます。
The prefecture concerned shall pay the necessary expenses for the Prefectural Governor to enforce this Act.
「都道府県知事がこの法律を施行するために必要とする経費は、当該都道府県の負担とする。」(建設業法)
No person other than a party to this Agreement shall have any rights to enforce any term of this Agreement.
「本契約の当事者以外の者は、本契約の条件を実施するためのいかなる権利も有さない」
- Make
「(人)に~させる」の意味では、日常的に使われる最も一般的な言葉です。もちろん英文契約書でも使用されることがあります。「(人)に~させる」という使い方では、「make + 目的語 + 原形」の形で、英文契約書の用語と単語「に~させる」の表現(その1)の例文、「The Contractor shall cause its subcontractor to carry their identification cards when conducing the site survey.」の文章に「make」を使用してみると、The Contractor shall make its subcontractor carry their identification cards when conducing the site survey. (請負業者は、現地調査を実施する際に、下請業者に身分証明書を携帯させるものとする)
「cause someone to do」が「make someone do」の形になるだけで意味は同じです。経験的には、英文契約書の場合、「make」よりも「cause」が使われています。
4. その他の表現について
「(人)に~させる」という表現は、英文契約書において以外と多く目にする機会があり、以前から取り上げてみたい内容でした。
「(人)に~させる」の意味では、上記のcompel、enforce、make、前回のcause、imposeを使った表現のほかにもさまざまな単語、表現があります。それらについては、別の機会を設けて見てみたいと思います。
参考図書:
カレッジライトハウス英和辞典(研究社)
英和大辞典(研究社)
ビジネス法律英語辞典 日経文庫