1. 拡大する知的財産権の適用範囲
近年、周知のようにライセンス契約において法的保護の対象となる知的財産権の範囲は、拡大傾向にあり、その代表格である、Patents(特許権)に加え、Copy rights(著作権)、Trademarks(商標権)、Designs(意匠権)、Trade Secret (トレードシークレット)等、その他多くの分野に拡大されています。当然、英文契約書にも知的財産権に関する記述が多く含まれています。例えば、、(Patents(特許権)に代表される)「Intellectual Property Rights」(知的財産権)は、定義条項において定義されます(その都度の定義する場合もあります。)。
「Intellectual Property Rights」の他に、近年、知的財産権に関して多く使用される用語に「Proprietary Rights」があります。辞書を見ると「所有権」となっている場合が多く(実際「所有権」なのですが)、この「Proprietary Rights」という用語、「知的財産に関する法律により保護される、ありとあらゆる種類のその物に対する財産的権利(登録済みまたは出願中にかかわらず)を含みます。」
2. 具体的ないくつかの例および訳語について
例えば、
例1)Intellectual Property means all proprietary rights, including patents, copyrights, trade secrets and proprietary information.
「知的財産とは、特許、著作権、トレードシークレットおよび機密情報を含む、すべての所有権を意味する。」
別の例では、
例2)In this agreement, Intellectual Property means statutory and other proprietary rights in respect of copyright and neighboring rights, all rights in relation to inventions (whether patentable or not), patents, plant varieties, registered and unregistered trademarks, registered and unregistered designs, circuit layouts and Confidential Information and other rights arising from intellectual activity in the industrial, scientific, literary or artistic fields but does not include moral rights that are not transferable.
「本契約においては、「知的財産」とは、著作権と隣接権、発明(特許性のある、なしを問わず)、特許、植物種、登録済みと未登録の商標、登録済みと未登録の意匠、回路レイアウトと機密情報に関連するすべての権利、および工業、科学、文学または芸術分野における知的活動から生じたその他の権利に係る制定法上の権利とその他の財産権を意味するが、これには、譲渡可能でない著作者人格権は含まれない。」
(以前は、Patents それ自体を「知的財産権」として定義した契約も見受けられました。)
また、以下のような例もあります。
例3)copyrights, trade secrets, trademarks, patents, inventions, designs, logos and trade dress, moral rights, mask works, rights of personality, publicity, and privacy, rights in customer information, rights (if any) in domain names, and any other intellectual property and proprietary rights;
「著作権、トレードシークレット、商標、特許権、発明、意匠、ロゴとトレードドレス、著作者人格権、マスクワーク、人格権、広報、プライバシー、顧客情報の権利、(該当する場合)ドメイン名に関する権利、および他のすべての知的財産権と所有権」
この場合は「proprietary rights」=「所有権」と訳し、問題はないのですが、すでに述べたように「Proprietary」は、「知的財産に関するあらゆる種類の財産的権利」の意味を含んでいます。その意味では、他に何か適切な訳語、例えば、例3)の場合など、分かりやすさという観点から、文脈により「あらゆる種類の財産的権利」等もあながち誤ってはいないかもしれません。
その他「Proprietary」自体の訳語としては、辞書によっては、形容詞として「独占の」、「専売の」、「占有の」、「特許で保護された」、「著作権のある」などとされます。辞書を見ると、「proprietary name (特許登録名、商標名)」、「proprietary technology(特許技術)」等の例が見られます。
なを、IT関連などでは、「proprietary(プロプライエタリ)」= 製品、システムの仕様、規格、構造等が独占的に保持され、公開されていないものとして、「Open」の反意語として、例えば、「proprietary software(プロプライエタリソフトウェア)」などとして、カタカナ読みで用いられる場合もあります。
英文契約書に記載される知的財産権の内容は多岐にわたり、上記の内容はごく一部に触れただけです。機会があれば、知的財産権に関するその時々のトピックスも吐露上げてみたいと思います。
参考図書
- 法律用語辞典(有斐閣)
- 英和大辞典(研究社)
- コンパクト六法(岩波書店)
- Trend (小学館)
- Oxford Dictionary of English
- Collins Consise Dictionary
- ビジネス法律英語辞典
- 特許庁特許情報プラットホーム他