契約書の翻訳をする際に「entitle」という言葉を目にします。今回は、「entitle」を取り上げてみます。この言葉は、以前、英文契約書の用語 単語編 No. 35で一度取り上げたことがありますが、今回、再度、別の観点から取り上げてみます。
話がそれますが、テレビで野球を見ている時に、「エンタイトルツーベース」とアナウンサーが絶叫しているときがあります。そのまま訳すと「entitled two-base」だと、「ツーベースの資格がある、その資格が与えられる」となります。何かのおかげで二塁まで出塁できるヒットという意味で使われているようですが、「entitled two-base」または「entitled two-base hit」は、和製英語です。英語では、Ground-rule Doubleとなります。ただし、和製英語の中でも「entitle」の意味をそれなりに把握した和製英語です。
1. entitleの意味の復習
「entitle」は、名詞「title」からできた動詞です。名詞の「title」には「肩書き」、「権利・資格」という意味もありますが、それに接頭語「en-」を付けて、「entitle」という動詞になります。
このような形式の名詞から動詞には、「body」に接頭語「em-」を付けて、embodyとなるものがあります。
ちなみに、embodyの主な意味は、「具体的に表現する」、「具体化する」、「具現化する」、「まとめる」、「統合する」という意味があります。何かにボディを与え、具体的なものにしていく、具現化していくとなります。
「entitle」を使った熟語が、「entitle 目的語 to 名詞」です。この場合の目的語は「人」であり、名詞の部分が〔…の〕であり、人に~の権利(資格)を与えるになります。
The Child will establish the Trust and entrust the proceeds of the Loan to the Trust(「子」が「信託」を開設し、「債権」の収益を「信託」に委託します。
Recipient further acknowledges that XXX has treated such Proprietary Information as confidential and secret information that XXX entrusts to Recipient in strict confidence.
(さらに、XXXが「受領者」に極秘として委ねた機密情報および秘密情報として、XXXが、当該「財産」に関する情報を取り扱ったことを「受領者」は、承認する)
When Products are entrusted to the LICENSEE within the framework of the bailment procedure provided in Schedule 4, (スケジュール4に規定される委託手続き(bailment procedure)の範囲内で、商品が、ライセンシーに委託された場合、)
ここから、「誰か(A)に何か(B)をすることができる資格や、何か(B)を所有する権利を与える」という意味になります。この使い方は、契約書では、概して受動態の「A be entitled to B」の形式で使用することが多々あります。この形式だと長い文章では、意味がとりにくい時があります。その場合、いったん、能動態に直してみると訳しやすくなります。
例として、上記の文章(When Products are entrusted to the LICENSEE within the framework of the bailment procedure provided in Schedule 4, )を能動態にすると、以下のようになります。
When xxx entrusted Products to the LICENSEE within the framework of the bailment procedure provided in Schedule 4,
上記は、余り込み入った文章ではないので、分かりやすくなった感がないかもしれませんが、修飾が多い文章である場合、格段に読みやすさが違ってきます。
その他、英文契約書を読んだり、書いたりするうえで、意味「AにBの資格[権利]を与える」とい意味で使用されることをも多く見受けられます。「誰か(A)に何か(B)をすることができる資格や、ものなど何か(B)を所有する権利を与える」という意味の熟語です。また、受動態の「A be entitled to B」も多く使われます。
2. 「entitle」以外の単語を使用した同様な表現
「~の権利[資格]を与える」、「権利[資格]を与える」等の意味では、「entitle」のほかにも「grant right to」、「give a right to」等、さまざまの用語があります。
All employees are entitled to receive all company benefits. (全授業員は会社のすべての福利厚生を受ける資格がある(権利を与えられている))
The buyer shall be entitled to transfer any rights deriving from this Agreement.
(買主は、本契約から得られた権利を譲渡する権利が与えられている。)
なを、「権限を与える」の意味では、英文契約書の用語 単語編 No. 35の中でいくつかの例として、「empower」、「authorize」、「give an authority」、「grant a power」等があることを書きましたが、具体例は、別の機会でということでした。今回、これらの用語について以下に使用例として簡単な例文を作成してみました。
The manufacture shall not grant rights to the Products in whole or in part to third party. (製造業者は、第三者に製品の全部または一部の権利を付与しない)
It shall not grant any right to make protest against the termination of employment. (解雇に抗議する権利を付与するものではない)
It shall give authority to ~(~に権限を与える)
The court may empower a supervisor to give approval in lieu of the permission set forth in the preceding paragraph.
(裁判所は、監督委員に対し、前項の許可に代わる承認をする権限を付与することができる。)(会社更生法)
The contracting officer is futurized to enter into the contract(契約担当官は契約を締結する権限を与えられている)
参考図書
ビジネス法律英語辞典 (日経文庫)
英和大辞典(研究社)
法律英単語(自由国民社)他