1. 英文契約書に多く見らえる厳格で網羅的な表現
契約書翻訳の中でも英文契約書を日本語に翻訳する場合、日本語の契約書とはその性質が基本的に異なります。英文契約書の性格の1つとして、すべての事柄について、あらゆる状況を想定し、例外の状況にも対応した文章とし、あいまいさを避けるために複数の同じ意味合いの言葉を使用し、さらに、一文にいろいろな条件・状況の設定を盛り込んでいる場合があります。
これらは、英米法の口頭排除の原則(Parol evidence rule)、最終性条項または完全なる合意といわれる(Entire Agreement)における書面重視の考え方、習慣等によるされます。一般に、英文契約書において可能な限り、考えられるすべての事項につき文章化することを行います。そのため、表現が厳格で網羅的な内容になるため、1つの文、条文が長くなり、契約書全体も長いものになります。
2. 日本の契約書の例
一方、日本で通常作成される国内用の契約書では、多くの場合、「本契約に特段の規定がない場合、別途協議の上取り決める。」等の1文を加えることでこの問題に対応しています。
3. 厳格で網羅的な表現と包括的表現
契約書ではありませんが、1つの例として、古代ローマのクィンクテウス法の中にある水道の棄損と修復の関する規定は、「何人も、悪意により、水あるいは水の一部分がローマ市に通じ、落下し、流入し、到達し、導入すること等を不可能にする目的をもって…(中略)…穴をあけ、または破壊し、もしくは穴を開けさせ、または破壊せしめ、あるいは損害を加えたものは…(中略)…および何であれこれを行った者は、修理、改造、修復、建築、建設、建造、[建てたもの]の破壊等の行為等をすべて行うべき責を負わなければならない。」とあります。
一方、日本の、刑法第147条は、「公衆に供給する飲料水の水道を損壊し、又は閉塞した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。」となっています。
前者の考え方は、考えられる具体的な例示、事由の列挙、義務・責任範囲の明示等を予め規定することで、物事を円滑に進めることができるかもしれません。一方、文章としては、複雑で平明さを欠きます。
後者は、一般的かつ包括的表現をとっていますが、抽象的であるため、個々の具体的な事件については、相応な解釈を必要とされることがあります。
ただし、いずれが良いのかは、判断できません。
例文に訳文が付いている場合、それらの訳文は暫定訳です(法律文を除く)。
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参考図書:
法律用語辞典(有斐閣)
英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)
Trend (小学館)
Oxford Dictionary of English
日本法令外国語訳データベースシステム他