「英米法」と「大陸法」
契約書翻訳に際して、英文契約書や英文契約書の解説書に接していると、よく「大陸法」とか「英米法」とかという言葉を目にします。周知のように、「英米法」は、イギリス、カナダ、アメリカ、オーストラリア等、かつてのイギリスの植民地を中心に使われ、慣習法、判例法に負うところが多く、他方、「大陸法」は、フランス、ドイツ、イタリア等、ヨーロッパ大陸を中心にローマ法に主たる起源をもつ法体系です。(いずれもその具体的な内容は、例によって専門書をご覧になることをお勧めします。-ウェッブ検索によるものは、その内容の真偽が定かでない場合も多いようなので)
とりあえず英文契約書の内容を理解するに際しては、こられを掘り下げて仔細に吟味する必要もないかと思われます。むしろ、その内容に、契約に対する当事者双方の意図が正しく記載され、これにより契約が正しく履行され、さらに当事者間の誤解や紛争を防ぐための事柄が記載されているものであるか、どうかを判断すること、またはドラフティングを行う場合、そのような内容の英文契約書を作成することが必要です。契約書翻訳の視点から解説してみます。
一般的かつ包括的な表現の不在
ただし、英文契約書の特徴の1つとして、上記の法体系による影響なのか、ある事柄について「*一般的かつ包括的表現」を行うよりも、ある事柄について、「そこに含まれるであろう個々の事例を1つ1つ列挙する傾向」があり、これにより文章が長文化する傾向が生じる原因の1つと考えられます(もちろん、英文契約書の文章が長文化する傾向はこのことだけが原因ではありませんが)。
(*日本の契約書の場合、一般的・包括的/抽象的に表現される傾向があり、例えば、良く眼にする内容として「本契約に定めなき事項または疑義を生じた場合、両当事者の協議によりこれを解決する」等の一文が定番として記載されているのを良く見かけます。もちろん英文契約書でも、例えば「Matters not stipulated in this Agreement or any doubt, with respect to the interpretation or performance of this Agreement shall be discussed and resolved based on the coordination between the parties」)のような一文(当方作成の例文。)を記載することもあります。)
また、ある事柄(あることに対する契約)について、様々な相手方に対して長年使用されている契約書などでは、問題の発生、時代の変化等、さまざまな要因により、それが当初作成した時点では、考え得るすべてのことを網羅した内容であっても、加筆、修正、削除等が行われます。これにより、中には、文章が、複雑化し、時として「木に竹を接ぐ」的な文章になることもあります。
英文契約書では、その一面だけを見ても条項の一文が長くなり、日本の契約書と比べ、相対的に複雑化する傾向が見られます。このことが、英文契約書の内容を理解するうえでの1つの妨げになっているかと思われます。そこで、ためしに長文を読解について少し書いてみます(英文契約書の長文を理解するためのコツをつかむ多少の手助けにはなるのでは???)。長文を読解については、一度書いてみたいとの希望がスタッフにあったのですが、例文の作成に手間がかかるので、年末の業務が終了した今になってしまいました。
「including, but not limited to / include, but is not limited to」または「including without limitation /including, without limitation 」については、以前のブログで取り上げたことがあります。
今回は、これらの表現を使用して、「すっきりした翻訳」に挑戦してみます。作成した以下の例文を基に、実践的に説明いたします。また、その他のヒントも掲載ました。
ABC Company shall, to the fullest extent permitted by law, indemnify, defend upon request, and hold harmless XYZ Company and its members, officers, directors, employees, agents, representatives, subsidiaries, affiliates, successors, and assigns (collectively, “Indemnitee”) against all losses, claims, damages, expense and liabilities sustained or incurred by the “Indemnitee” for any damage, harm, loss or injury of any kind, direct or indirect, to any property, entity or person, including, but not limited to, claims for injuries to employees of the “Indemnitee”, ABC Company and/or any related party, arising directly or indirectly out of any act, omission, conduct, negligence or default by ABC Company or its related party or their respective officers, directors, employees, agents, representative, subsidiaries, successors, or assigns (“ABC Company’s Parties”) and/or arising directly or indirectly out of or in any manner associated with the Obligations under this Agreement or any contact with or encountering of any property, equipment, vehicles, facilities or personnel of the “Indemnitee”, regardless of whether any such liability, damage, loss or injury is caused by, results from or arises out of the negligence, fault or other liability of the “Indemnitee” or any other party to be indemnified.
今回作成した例文は、192ワードあります。一見して「大変そう!」、「何か翻訳が難しそう。」、「長い文章は苦手!」などと思われる方も多いのでは!
ポイント1-インデックスとなる単語、表現を見つけて、グループ化
このような場合、インデックスとなる単語、表現を見つけ、かつ、グループ分けすることで、すっきりとした翻訳が可能になります。まず、以下のように上記の文章をグループに分けます。
ABC Company shall, to the fullest extent permitted by law, indemnify, defend upon request, and hold harmless XYZ Company and its members, officers, directors, employees, agents, representatives, subsidiaries, affiliates, successors, and assigns (collectively, “Indemnitee”) against all losses, claims, damages, expense and liabilities sustained or incurred by the “Indemnitee” for any damage, harm, loss or injury of any kind, direct or indirect, to any property, entity or person,
including, but not limited to, claims for injuries to employees of the “Indemnitee”, ABC Company and/or any related party,
arising directly or indirectly out of any act, omission, conduct, negligence or default by ABC Company or a its related party or their respective officers, directors, employees, agents, representative, subsidiaries, successors, or assigns (“ABC Company’s Parties”)
and/or arising directly or indirectly out of or in any manner associated with the Obligations under this Agreement or any contact with or encountering of any property, equipment, vehicles, facilities or personnel of the “Indemnitee”,
regardless of whether any such liability, damage, loss or injury is caused by, results from or arises out of the negligence, fault or other liability of the “Indemnitee” or any other party to be indemnified.
ポイント2
ここで注目するポイントは、「including, but not limited to、」「arising directly or indirectly」と「regardless of whether ~」です。
「including, but not limited to」の場合、その前にある文章を訳した後に、「including, but not limited to」で分け、「上記は、以下を含むが以下に限定されない」と限定すれば、すっきりと訳すことができます。
「 (例文の下線部分の訳)を含むが「(例文の下線部分の訳)に限定されない」というように、一つの文章の様に訳すと長くなり、読み手もどこに焦点を置いて読む(訳す)のか迷ってしまいます。
また、「arising directly or indirectly」と「and/or arising directly or indirectly」のように、同じ文章があるときは、必ず、xxxおよび/またはxxxのように、「arising directly or indirectly」の文章ごとに訳します。
ポイント3
また、長い文章の後に、「regardless of whether ~」のような言葉がでてきた場合、前の長い文章から訳し始めて、「(それ以前の文章を全部入れて)、whether以下であるか否かにかかわらない。」とすると、訳すのが大変になります。この場合、長い文章を訳した後に、[上記は、whether以下であるか否かにかかわらない。」とします。
この様に整理した後に、文章として読んで分かり易いようでしたら、そのままのこれを訳文といたします。
ただし、文章の流れが若干スムースでないように思われる場合、読みやすくするために、シャッフルして文章を入れ替えることも可能です。
参考図書:
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)
Merriam-Webster (Webster)
Collins Concise Dictionary (Harper Collins Publishers)