契約書翻訳の視点から今回は、英文契約書の準拠法条項(Governing Law)と紛争解決条項(Settlement of Dispute)についてからみてみます。
- 準拠法
「準拠法」の意味を法律用語辞典で見ると、「渉外的法律関係に適用される法として国際私法により適用される法」とあります。ついでに「国際私法」を見てみると「渉外的法律関係に適用される法を指定する法。複数の国の法律のうち準拠法を選び出し、法律の抵触を解決するもの」とあります。準拠法条項は、どこの国の法律を契約書の解釈のもととするかを規定します。国際取引に関する契約書では、その分野を問わず必須の条項です。
以下に、日本の法律を準拠法とする例文を作成しました。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.
(本契約は、日本法に準拠し、同法により解釈される)
外国の法律を準拠法とする場合、例えば、米国のカリフォルニア州の場合「the laws of Japan」、の部分が「the laws of California, the United State of America」等となります。また、時として、「without reference to conflict laws of principles」などと抵触法の原則にかかわる一文を追加することも良くみられます。
- 紛争解決条項
一般に紛争解決条項は、仲裁条項(Arbitration)と合意裁判管轄条項(Jurisdiction)があり、契約では、一般にそのいずれかが規定されます(この2つが規定される場合もあります)。
a. 仲裁条項
仲裁の意味は、「一般に当事者の合意に基づき第三者の判断により当事者間の紛争を解決すること」です。仲裁は、裁判所ではなく仲裁に紛争を付託することを当事者が選択する場合です。仲裁については、以前からの仲裁契約の準拠法の問題やそれ以外の事柄につき様々の議論がありますが、ここでは単に知っておくと便利は「仲裁条項」の文例に留めます。
仲裁条項には、様々なものがあります。仲裁機関も様々で、例えば、国際商工会議所(The International Chamber of Commerce: I.C.C)、国連国際商取引法委員会、その他の仲裁機関によるもの、被告地主義を採用するもの等もあります。以下に作成した例文は、簡単なものですが、日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association)の仲裁規則により仲裁を行う場合の一例です。
If the Parties are unable to resolve their dispute through bona fide negotiations, all disputes, controversies or claims arising out of this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the commercial arbitration rules of the Japan Commercial Arbitration Association in Tokyo under laws of Japan. (両当事者が、誠実な交渉による係争の解決をなし得ない場合、本契約から生ずるすべての係争、論争もしくは申し立ては、日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従い、日本法の下で、東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。)
そのほか、原文が日本語の契約書を英訳する場合、単に「紛争を話し合いで解決する」との内容の記載が以下に作成した例文のような形式で規定されていることが、ごくまれにですが見ることがあります。
The Parties shall use their best efforts, in good faith, to amicably settle any dispute arising out of or in connection with the interpretation, execution and performance of this Agreement.
やはり紛争解決の合意規定としては、仲裁機関と適用規則を記載するのが良いのでは考えます。
b. 合意裁判管轄条項
一般には、契約上の紛争に際して、仲裁よりも裁判のほうが適切とされる場合に使われるようです。この条項にも様々なものがありますが、ここでは以下に作成したものを例文としてみました。
This Agreement shall be governed by the laws of Japan and any dispute in relation to this Agreement shall be brought in the Tokyo District Court as the exclusive competent court for the first trial.(本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争の第一審の専属管轄裁判所は、東京地方裁判所とする。)
各例文は、いわば定型文(すべてがこの形式のそのままではありませんが)に近いものです。覚えておいて損はないと思います。
英文契約書の解釈や海外の取引先との取引内容について疑問がある場合、やはり専門家のアドバイスを受けるのが正解でしょう。特に海外の法律が絡む問題は、専門家でなければわからないと思います。法律事務所等は敷居が高い感じがしますが、たいていの場合、親切に相談を受けてくれます。もちろん料金はそれなりですが、経験的には料金に見合った回答やアドバイスを受けられます。それでもという方にはJETROなどに質問してみるのも良いかと思います。また、以前租税条約がからむ案件の引き受けの有無を検討したときは、JETROと弊社に税務をお願いしている税理士さんに相談したところ、いずれからも適切な回答をいただいた記憶あります。
参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
法律英単語ハンドブック(自由国民社)