単語「entitle」は、英文契約書や法律文書の欠かせない定番の単語の1つです。さまざまな場面で使用されます。契約書翻訳の観点から概説します。
1. entitle
「権利を与える、資格を与える、〜に題名をつける」
Licensor is entitled to ~(ライセンサーは~の資格を与えられている・ライセンサーは~する権利がある)
This Agreement shall entitle Reseller to purchase Products at the discounted prices.(本契約は、再販業者が割引価格により製品を購入する権利を与えるものとします。)
entitleの名詞形は「entitlement」(権利・資格(付与))です。
2. 類語・類似表現
類語・類似表現には以下のようなものがあります。これらは本来、それぞれ文脈に応じた使い分けが必要ですが、以下に作成した例文では、結果的に「何かの権利・資格が与えられている=何かの権利・資格を有している」というニュアンスになります。英文契約書で使われる代表的な意味とそれに合わせて作成した例文(*を除く)を通して、これらについての用法をざっと見てみます。また、ここで書いた各単語の意味は契約書という観点からかなりしぼってあります。これ以外にも多くの意味と用法があります。
a) give
「権限を付与する・権限を与える」
例えばgive somebody authority to doの形で、The managing committee gives the person in charge the authority to supervise the subcontractors.(運営委員会は、担当者に下請け業者を監督する権限を与える)
b) vest
「(権利・財産)与える、授ける」
vest someone with authority((人に)権限を付与する)の形で、例えば、
The board of directors may vest the employees with the award of superior performance. (取締役会は、優れた業績に対する賞を従業員に与えることがきる。)
またはvest in(帰属する)の形で、例えばThe ownership of the properties shall be vested in the successor.(物件の所有権は後継者に帰属する。)
*The receipts from work shall vest in the national treasury. (作業の実施による収入は、国庫に帰属する。)http://www.japaneselawtranslation.go.jp/kwic/?re=01
b. confer
「~を授与する」
confer something on someoneの形で、Nothing in this Agreement, express or implied, shall not be intended to confer on any third party any right under this Agreement.(本契約のいかなる条項も、明示・黙示を問わず、本契約に基づく権利を第三者に与えることを意図しない。)なお、本例文は、強調のため文章を倒置してあります。
c. bestow
「~を授ける、与える、贈る」
例えばbestow something on someoneの形で
The committee shall bestow the full authority on him.(委員会は彼に完全な権限を与える。)
私見ですが、「bestow」は実際の翻訳作業では、正直あまりお目にかかることはありません。
c) allow
「許す、認める」
This Agreement shall not allow the Buyer to establish the right of lien to the products prior to the payment thereto. (本契約は、購入者が製品の支払い前に製品に対する抵当権を設定することを許可しない。)
「entitle」を使って上の文章と同じような感じの意味を持つ例文を作ってみました。
This Agreement shall not entitle the Buyer to establish the right of lien to the products prior to the payment thereto. (本契約は、購入者が製品の支払い前に製品に対する抵当権を設定する権利を与えない。)
上記の例文を購入者側の立場から見た場合は、以下の様な例文になります。
The Buyer shall not be entitled to establish the right of lien to the products prior to the payment thereto. (購入者は、製品への支払い前に製品に対する抵当権を設定する権利を与えられていない。)
Only one (1) entry is allowed per person during the contest period.(コンテスト期間中、出品作品は1人につき1点のみとします。)
d) permit
「許す、許可する、許す、可能にする」名詞形は「permission」
以下の例文は、同意を与えて「許す、許可する」の意味。
The Licenser shall not permit the Licensee to use its trademark without the prior written permission of the Licenser.(ライセンサーは、ライセンサーの書面による事前の許可なしに、ライセンシーがその商標を使用することを許可しない。)
e) authorize
「正式に許可する、認可する」名詞形は「authorization」
Distributor is authorized to sell the products under this Agreement. (ディストリビューターは、本契約に基づき製品を販売することを許可されています。)
f) grant
「許可する、承諾する」名詞形もgrant「許可,認可」
辞書を見ると「願いにより許可する」という意味もあり、英文契約書でも、そのようなニュアンスの例文を作ってみました。
Upon a request of the Licensee, the Licenser may grant the Licensee to use such license after payment of the license fee. (ライセンシーの求めに応じ、ライセンサーは、ライセンス料の支払い後に当該ライセンスの使用を許可することができる。)
すでに述べたように、実際には、上記いずれの言葉もそれぞれの状況に応じた使い分けが必要ですが、例文的には結果的に「何かの権利または資格が与えられている=何かの権利または資格を有している」という解釈で作成しました(いささかとってつけたような感じはありますが)。上記の言葉の他にも様々な表現やフレーズがあります。これらについては、別の機会を設けたいと思います。
参考図書:
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
ビジネス法律英語辞典(日経文庫)
How to Create Effective Sentences in English (文英堂)
The New Oxford New Dictionary of English (Oxford University Press)